「ヌサンタラのコーヒー(34)」(2023年12月07日)

マラン市からダンピッへ行く途中にTurenがあり、国道3号線がこの郡の南部をかすめて
いる。トゥレンにも地元民に人気のあるワルコップがあるのだ。オーナーのアスクリさん
をみんなはチャックリと呼ぶ。2008年のコンパス紙にチャックリのワルンが紹介され
ている。

チャックリのワルコップはトゥレン市場の裏手にある。店舗が並ぶ一角の中の4x3メー
トルの空間が地元民の愛するチャックリのワルンなのだ。ふたつのテーブルをはさむ2脚
のベンチがその空間を占め、大人が三人座るだけでいっぱいになってしまう。

コーヒーを注文すると、受け皿とふたのついた、時代もののカップに入って出て来る。あ
ちこちにひびが入り、中には持ち手が割れているカップもある。1983年に開業して以
来、その場所で年を取った食器たちなのである。

言うまでもなく、このワルンで供されるコーヒーもトゥブルッ方式のものだ。淹れたコー
ヒーの液体を濾すことはしない。「コーヒー豆はスンブルマンジン産で、混ぜ物は一切な
し。自分で焙煎して粉に挽いている。」とチャックリは語る。良いアロマが得られるよう、
焙煎は土鍋を使う。

チャックリは客が飲んだコーヒーのカップの中の滓を捨てない。それを集めて客にcethe
を供するのである。ルンバンやラスムでコピレレッと呼ばれている、タバコの巻紙にコー
ヒー滓をつけて吸うお遊びはこの地方でコピチェテと呼ばれている。


チャックリは若いころ、ワルンを16時に開けて深夜1時に閉めていた。しかし今では無
理をせず、朝5時半にオープンして16時に閉店するようになっている。ところが客たち
は店主を見捨てもしないで、店主が働きたい時間にやってくる。

チャックリのワルコップもサロン機能を果たしている。客たちはおしゃべりに興じて時の
経つのを忘れ、その間にコーヒーを3杯も4杯も飲む。そんな芸当はとてもモダンカフェ
やブティックカフェでできるものではない。ワルコップだからこそ可能なのだ。なぜなら
チャックリのコピトゥブルッはカップ1杯でたったの1千ルピア。ミルクを混ぜたり、シ
ョウガ入りにしてやって1千5百ルピアになる。


話しが一足飛びするが、これはチャックリのワルコップと無関係の話だ。悪事が行われる
とコーヒー豆の品質が低下して市場がその銘柄を受け入れなくなり、コーヒー生産事業に
障害が起こることはダンピッロブスタの事例が示している通りだ。その例は生産者農民自
身が行った悪事だったが、生産者が被害者になる農園荒らしや畑荒らしも1990年代後
半にしばしば発生した。

盗賊団が他人の農園や畑から熟した実を盗摘するのだ。生産者にとっては生産量が減ると
言うだけでなく、盗まれるものが最高級の完熟した実ばかりだから経済的なウエイトの比
率は生産量の減少に比例しない。それが生産者の心理に波及効果を及ぼして、生産者自身
が生産品の品質を低下させていく結果を産むのである。

どういうことかと言うと、農民は自分の畑の木の実が完熟するのを待たず、熟し方のまだ
若いものを摘んでしまうようになるのだ。完熟するのを待っていると盗摘されるかもしれ
ないではないか。だから、早めに摘んで売る方がマシだと考えるわけだ。おかげで上質の
コーヒー豆の量がどんどん低下を起こしてしまう。

1998年の東ジャワ州コーヒー生産総量は、この荒らしが35ヵ所の農園に蔓延したこ
とと長引いた乾季によって前年の4万トンから2.5万トンに低下し、前年49%を占め
ていた上質ものが26%に大きくダウンした。

一方、盗賊団が盗んだコーヒー豆は名前の知られた高級品として市場に出すわけにいかな
いのが明白だ。通常の生産者でない者がそんなことをすれば疑われるに決まっている。結
局は中級品として国内市場に流される運命にあり、泥棒も決して大儲けができるわけでも
ないのである。[ 続く ]