「クンタオ(16)」(2023年12月11日)

アンバラワに住むロウ・ジンティの名前はスマランにまで聞こえるようになった。アンバ
ラワでベー・ビアウチョアンのアヘン販売代理人をしているチアム・ジュンタイが自分の
一家の祝い事に大勢のひとを招いたとき、ビアウチョアンの代理人が祝儀を持って訪れた。

その馬車をベー・カンピンが護衛していた。そしてジュンタイの屋敷でジンティとカンピ
ンが初めて会ったのである。ふたりは共に少林寺で少年時代を過ごした体験を持っていた
ことから、互いに親近感が高まったようだ。ふたりは親交を結んだ。

カンピンがアヘン馬車に乗ってアンバラワへ来ればジンティの家に泊まり、ジンティがス
マランへ行ったときはカンピンの住んでいる寮に泊まった。ジンティがカンピンの寮に泊
まりに来ると、アンバラワの拳豪と話をしたいカンピンの友人知人たちがたくさんやって
きた。


ある時そんな座談の中で、悪徳華人金持ちの話題が出た。美女を見かければ未婚も既婚も
おかないなしに手を出し、金の力で自分のベッドに横たわらせる。ところが飽きやすい性
格をしているため、飽きたらさようならだ。

人妻の場合、金に目がくらんだ夫が一定期間妻を貸し出せばまた元の鞘に収まるかもしれ
ないが、妻の方が金に目がくらんだ場合は夫がやくざ者の来訪を受けて手も足も出なくな
り、妻が金持ち華人のベッドに喜んで横たわって金をねだりまくることになる。そうやっ
てひと財産作るのが「女の戦略」なのだろう。

妻がさようならをされて家に戻って来た時にさまざまなケースが起こったことは想像に余
りある。そのオプションのひとつとして、妻を許さないで家の外に蹴飛ばすような夫もい
たにちがいあるまい。ひと財産作って自分の人生を自分の手で切り開いて行こうと考えて
金持ち華人のベッドに上って行った人妻にとっては、夫に蹴飛ばされるのも当然の結末か
もしれないが、それでも19世紀後半の世界中にあった世間というものはそんな女をまと
もな人間と認めなかったはずだ。

その時代の倫理観に即した依存性豊かな妻たちが夫から家の外に蹴飛ばされたら、女は路
頭に迷うことになる。だがその悪徳華人は飽きた女をまた拾うようなことを決してしない
から、まず間違いなく女の身に悲劇が生じただろう。結婚生活そのものに悲劇が起こり、
そしてさらに妻の身に悲劇が起こればダブルパンチになる。


プダマラン地区に住むその悪徳華人ワン・チョッジュワンは半年ほど前に貧しい家の美し
い娘に熱を上げ、妾に欲しいと言って親を大金でなびかせ、その娘を家に入れて数ヵ月間
もてあそんだあと、今度は貧しいバッミ作り売り人ホー・アンキウンの美しい娘キムキョ
ッに目が移った。

キムキョッが自分の第二妻になるよう骨を折れとチョッジュワンは衣裳や装身具などの巡
回物売りをしている中年女に命じ、既に許婚者のいるキムキョッへの横車を押し始めた。
結納金として500フローリン、そして妻の父に毎月20フローリンの手当てを出すとい
う条件を付けたものの、アンキウンはその申し出を断った。娘には既に許婚者がおり、正
妻の座を捨てて第二妻にするのは世間体がはばかられる。そもそも年齢の離れた夫を持っ
て娘が楽しい日々を送れるはずがない。

キムキョッの許婚者に対しても、チョッジュワンは抜かりなく手を打った。100フロー
リンやるから許婚の約束をほごにしろと人を使ってアプローチさせたにもかかわらず、許
婚者の若者も拒否した。それならば、とチョッジュワンは嘘の噂話を拡散させた。キムキ
ョッは性的にふしだらなプレイガールであり、あの年齢でもう男を知っている。

しかし自分の知っているキムキョッがそんな娘じゃないことを確信している許婚者の若者
はそんなデマにまったく動揺しなかった。それでもチョッジュワンにはまだまだ打つ手が
残っている。アンキウンにも脅しをかけたが、怖がらない。そしてついに最後の手段が行
われたのである。[ 続く ]