「クンタオ(17)」(2023年12月12日)

ある日、アンキウンの家に警察がやってきた。「おまえは贋札作りだという届け出があっ
た。家の中を調べるから、住んでいる人間はすべて家の外に出ろ。」
そして警察は家の中のベッドの下から贋札をプリントする器具類を発見したのである。ア
ンキウンは逮捕されて留置場に入れられた。

アンバラワを管轄する監視官がアンキウンを取り調べた。贋札作りのための器具類は自分
のものでないとアンキウンは否定したものの、「じゃあ、誰のものなのか?」と監視官に
質問されてアンキウンは返事に困った。そんなことが答えられるはずがない。知らない間
に置かれていたのだと答えたが、監視官の満足できる答えにはならなかった。「おまえは
嘘をついている。」と言われて有罪にされ、300フローリンの罰金あるいは3カ月間の
入獄という判決を下された。300フローリンもの金がアンキウンの一家にあるはずがな
く、アンキウンは監獄に入る以外に道がなかった。

監獄に入った囚人たちは強制労働をさせられる。道路補修や道路の清掃が一般的な労働作
業だ。道路作業している囚人たちの中にアンキウンの姿が混じるようになってもう二週間
になる。

みんながチョッジュワンを悪しざまに言い、アンキウンの一家を助けてやりたいものだ、
と口をそろえてジンティに物語った。チョッジュワンのような悪逆非道の人間には必ず天
帝の罰が下るはずだが、罰が下るのを待っていればキムキョッが先に毒牙にかけられるか
もしれない。アンキウンの一家を助けるのが先決だろう。


すると「両方同時にやってしまおう。チョッジュワンを懲らしめ、同時にアンキウンの一
家を助けるのだ。」とジンティが言い出した。それをするのに早い方がいいから、今から
だれかがわたしに同行してチョッジュワンの家を教えてほしい、とジンティは言う。更に
また、「どなたかpotehiの人形を2体、買ってきてくれませんか。ひとつは水滸伝の宋江、
もうひとつは虎をお願いします。」と頼んだ。

「じゃあ、それはわたしが今から買いに行きましょう。でも師匠、チョッジュワンの家で
水滸伝を一席ぶってあいつを改心させるってのはちょっと無理でしょう。」と中のひとり
が言い、満座が笑った。いや、これはただの小道具だとジンティは説明した。そして立ち
上がると、チョッジュワンの家に案内してくれる者といっしょに寮を出て、人影のほとん
ど絶えた夜の道をプダマランに向かった。


ポテヒとは福建省泉州が発祥とされている中国人形劇「布袋戯」の福建語発音だ。福建文
化が浸透した台湾でも同じ文字と発音が使われているとはいえ、決して台湾固有の伝統文
化ではない。「たわむれ」の戯という漢字は日本で改造されたものであり、元々の中国文
字は「トラカンムリ」の下が「豆」になっている。

ところが日本人の中にポテヒのヒに該当する文字「戯」を「劇」に置き換えた者がいたよ
うだ。そのために中国人形劇ポテヒが日本語で布袋劇と書かれるケースが発生するように
なった。それはそれで一向に差し支えないのだけれど、布袋劇は「ホテイゲキ」とだけ発
音されるべきものであり、中国語名称のポテヒをその日本語の文字表現と結び付けるのは
問題があるだろう。ポテヒという音は布袋戯だからそう発音されるのであって、布袋劇と
は一致しない。布袋劇と書かれたならその福建語発音はポテキョッになってしまう。

そういう無理なことをするようになるのであれば、「戯」を「劇」に置き換えるようなこ
とをせず、最初から布袋戯をそのまま日本語に摂りこんで「ホテイギ」あるいは「ポテヒ」
と発音しておけばそれで済んだのではないかという気がわたしにはするのである。どうも
やっていることが支離滅裂であるように思えてしかたない。[ 続く ]