「ヌサンタラのコーヒー(37)」(2023年12月12日) 普段でさえ3千人ほどの摘み取り作業者が農園で作業しているのだ。それが大収穫期にな ると人数はその数倍に膨れ上がり、工場が持っている40数台のジーゼルトラックがひっ きりなしにコーヒーの実を満載して工場に入って来ては荷台を空にしてまた出て行く。 基本的に作業員は日雇いであり、その日摘んだ実を工場に納めることでその量に標準金額 が掛けられて支払われる。支払いは夜になるのが普通だ。普段の3千人でさえ、莫大な現 金が工場から地元民をメインにする作業員の手に渡る。作業員がその数倍になる大収穫期 には工場も数億ルピアにのぼる大量の現金を用意しなければならない。そして大収穫期は 何日も続くのである。 大収穫期から外れると、普段は小規模な収穫が行われている。ともあれいずれの場合であ っても見学ツアー参加者には、ただ見学して終わるよりも地元の作業者たちと一緒に収穫 作業を体験してみてはどうかというお誘いがかかる。 作業者に混じって自分の名前を申告し、コーヒー木から実を摘み取り、終わると赤い実と まだ赤くなっていない実を選別し、それを工場側に引き渡す。収穫作業の体験はそこまで であり、そこから先は工場側の加工プロセスを見学するだけになる。 工場では赤くない実をすぐ加工に回すが、赤い実は水に沈むものと沈まないものに分けら れる。そしてどちらも36時間の発酵時間を経てから水切りが12時間なされる。それが 終わると9日間ほど天日乾燥されて含水率が36%まで落とされ、続いて36〜48時間 の機械乾燥によって含水率が11%まで下げられる。そのあとは貯蔵されて選別され、焙 煎を経て梱包される。 選別プロセスは農園の近隣に住んでいる地元民女性が行っている。乾燥プロセスが終わっ たコーヒー豆が女性の手で粒よりにより分けられるのだ。巨大な豆biji gajahを特選し、 次いで粒の大きさをそろえてより分ける。そのときに、豆に付着している不純物も厳格に チェックされて、汚れのない完璧な状態のコーヒー豆にされるのである。このようにして 粒のそろった豆が市場に出て行く。 このイジェンラウン地域にもコーヒー生産者農民がいる。農民たちが作った組合は40あ り、各組合は25軒から40軒の農家で構成されている。決してPTPN XII社が一手に大規 模農園で生産しているだけではないのである。民衆コーヒー生産も海抜1千メートル級の 高所にある総面積2,100Haの農地で行われている。総生産量は年間1,200〜1,60 0トンだ。その7割が国内市場向けに出荷されてきた。 国際的にJava Ijen-Raung Arabica Coffeeと呼ばれている民衆生産のイジェンラウンコー ヒーが2012年にスイスに輸出された。8本のコンテナに満載されたイジェンラウンコ ーヒーはスイスで好評を博し、続いて米国の輸入業者がオーダーしてきたので、米国にも イジェンラウン民衆コーヒーが輸出された。 そのあと、2015年になってロシア・ポーランド・ウクライナなどのコーヒー輸入業者 がスイスでイジェンラウンコーヒーを知り、各国のインドネシア大使館に輸出の仲介を依 頼して来た。インドネシア政府外務省がそれを取りまとめたところ、年間1百トンを超え る量になった。この話がボンドウォソ県から地元生産農民に伝えられたものの、とてもそ こまでの生産余力がないことを農民側が認めた。 すると国有森林会社プルフタニが会社の遊休地1万Haを開放するので、それを農民がアラ ビカ種コーヒー畑に使って生産増を図るようにと協力を申し出た。そこに植えられた木が 実を付けるようになれば、ジャヴァイジェンラウンアラビカのシングルオリジンコーヒー が世界のあちこちで飲まれているのを目にすることができるかもしれない。[ 続く ]