「クンタオ(21)」(2023年12月18日)

クンチュンは親分のチョッジュワンからさまざまな用事を言い付けられ、その用事を行な
う都度、親分から金をもらうという立場の手下になっている。雇用関係ではないから、定
期的に給料をもらっているわけではない。時には親分と無関係に金稼ぎの仕事もするから、
ひたすら親分に仕えているわけでもない。

チョッジュワンのキムキョッ奪取作戦では、クンチュンが現場の手足として働いて大きい
功績を作り出している。アンキウンの家に贋札作り器具をひそかに置く手配をしたのがこ
のクンチュンだった。クンチュンはアンキウンと顔なじみでときどきかれの家を訪れるこ
ともある。クンチュンがアンキウンの下働きの者に5フローリン与えて贋札の器具類をベ
ッドの下に置かせたのだ。そしてその仕事の成功報酬として30フローリンをチョッジュ
ワンからもらっている。


朝早くから親分が別宅にいるのに驚いたが、キムキョップロジェクトの最後の詰めを早く
やりましょうと言ってクンチュンはチョッジュワンに迫った。それをやればまた褒美がも
らえるのだから。

ところがチョッジュワンは「ちょっと待て」と言う。あれほど熱を入れて進めてきたこの
プロジェクトにチョッジュワンがまるで逆方向の風向きを示したことがクンチュンを驚か
せた。いったいどうしたことかと根掘り葉掘り尋ねるクンチュンに隠しおおせる術もなく、
チョッジュワンは昨夜のできごとを物語り、ポケットからポテヒ人形と手紙をクンチュン
に見せた。手紙を読んだクンチュンは大笑いした。
「こんなものはただの口脅かしに決まっている。親分がこんなものを怖がっちゃいけない。
一度プロジェクトを始めたら最後までやり通さなければ親分の顔が立たないでしょう。こ
んな賊の侵入は、不寝番の見張りを置くだけでもう二度と起こりませんぜ。」

クンチュンのアドバイスに気分がほぐれたチョッジュワンは、さっそく見張り番の手配を
クンチュンに命じて資金を渡した。クンチュンはまだしばらく親分とあれこれお楽しみ分
野の話をしてから、言い付けられた用事を片付けるために出て行った。


時間は前後して6時間ほど前の夜中、チョッジュワンの邸宅で仕事を済ませたジンティが
カンピンの寮に戻って来ると、カンピンはまだ眠らないで親友の帰りを待っていた。「仕
事が速すぎるんじゃないか?」とカンピンが声をかけるとジンティが答えた。「とりあえ
ずはこんなものでいいだろう。チョッジュワンの肝は半分くらい縮んだはずだ。あいつの
金をこれだけ取ってきた。これでアンキウンを監獄から出そうと思う。」

カンピンはジンティの考えに賛成した。しかしチョッジュワンへの懲らしめはまだまだ手
ぬるいのではないだろうか。あの執念深い金持ちが一回くらい脅かされたところで改心す
るとは思えない、とカンピンは忠告する。ジンティはうなずいた。では明晩、第二回戦を
行なおう。


次の夜、深夜12時ごろ、ジンティは普通の服を着て出かけた。チョッジュワン邸の前に
は見張り番がふたり立っている。ジンティはきょろきょろせずに前を見て黙々と歩き、チ
ョッジュワン邸を通り過ぎて少し先の小路に入った。そして一軒の家屋の屋根に跳び上が
り、そこから屋根伝いにチョッジュワン邸の屋根までやってきて、屋敷内の人間の眠りが
深まるように呪文を唱えた。

邸内に入ったものの、チョッジュワンの寝室には中から鍵がかけられている。だが手品の
達人に開けられない鍵はないのだ。ジンティは寝室内のタンスの鍵を開いて衣服を全部取
り出し、机の上に置いてかき混ぜた。つぎに金銭宝石類も全部取り出して別の机の上に置
き、タンスをまた閉めて鍵をかけた。

続いてその部屋にある紙と筆で手紙を書き、台所へ行って一番鋭利な包丁と鉈をひとつず
つ持って寝室に戻ると、壁に包丁を突き立てて手紙を貼り付け、鉈は紐で縛って寝台の中
央に当たる位置に天井から吊るした。それがジンティの第二回戦だった。[ 続く ]