「クンタオ(22)」(2023年12月19日)

翌朝目覚めたチョッジュワンは、空中に浮かんでいる見慣れない物体が開いた目に最初に
飛び込んで来たのでそれを注視した。それが鉈であることに気付いたとき、かれは慌てて
寝台から転がり出た。そして室内を眺め渡し、また謎の怪人がやってきたことを知って戦
慄した。すぐに壁に貼られた手紙をはがして読む。

「汝は石頭で自分の欲望を達成するまで容易に屈しないことを我はよく知っているから、
もう一度警告を与えるために来た。これが最後の警告と思え。汝がアンキウンの娘を手に
入れようとする動きを少しでも起こしたなら、汝は我の敵になる。我が汝の全財産を取り
上げれば汝が一夜にして貧乏人になることも起こり得るし、我が汝の鼻や耳をそぎ落とせ
ば汝は生涯の悔いを抱えて余生を送ることになる。改心せよ。三斑点」
というような内容がそこに書かれていた。


チョッジュワンはこれも妻に内緒にしておこうと考えて手紙をポケットに入れ、室内を自
分で片付けてから包丁と鉈を台所に持って行った。朝食を済ませると、クンチュンに相談
するためにロンボッ小路の別宅へ行った。クンチュンは先に別宅にやってきて親分を待っ
ていた。キムキョップロジェクトの最終ステップを親分に決意させるためだ。

最終ステップのスタートを迫るクンチュンにチョッジュワンは眉をしかめた。賊がまた寝
室に侵入したことをお前は知らないのだ、と言ってチョッジュワンは一部始終を物語り、
手紙を示した。クンチュンが勧めた見張り番など何の役にも立たなかった。

「頭家、こいつはクンタオ師ですぜ。」と手紙を読んだクンチュンが言う。「わしもそう
思った。」とチョッジュワンも言う。続いてクンチュンが出したアイデアは、別のクンタ
オ師を雇ってチョッジュワンの寝室を警護させ、同時にチョッジュワンに刃向かって来る
怪人が誰かを見つけることだった。なるほど、それで問題の根を絶つことができる。チョ
ッジュワンはクンチュンのアイデアを買った。(イ_ア語になったtauke頭家は雇い主あ
るいはボスを意味している。)


誰を雇えばよいだろうか?クンチュンはアンバラワに住み着いた新客のクンタオ師、ロウ
・ジンティを勧めた。スマランに住んでいるクンタオ師を雇ったら、そいつが怪人三斑点
かもしれないではないか。ジンティはクンタオの腕も優れている上に頭も良いそうだ。ジ
ンティに捜査させれば三斑点の正体も暴くことができるだろう。

「ジンティを食客にして寝食丸抱えにし、手当ても別に出そう。仕事はわしの身辺警護だ
けをすればよい。他の義務は何もない。この条件で話をして来い。」とチョッジュワンは
クンチュンに命じ、アンバラワへの全経費と仕事の報酬として10フローリンをクンチュ
ンに渡した。クンチュンは「明日か明後日にはアンバラワへ出発します。」と答えた。


一方、ジンティは4百フローリンの金をどのようにアンキウンの妻に渡すかについてカン
ピンと相談した。3百フローリンは裁判所への罰金に使い、それを払ってアンキウンを監
獄から出させるための金だ。1百フローリンは出獄したアンキウンがバッミ作り売りの仕
事を再開するための資金として使う。その意図をアンキウンの妻に正しく理解させなけれ
ば、その目的が達成されずに違うことが起こるかもしれない。

だから、金をアンキウンの家に投げ込んだだけではどんな結果になるか分からない。妻は
怖がってその金を警察に差し出すかもしれないではないか。かと言って、誰かを使って上
述の口上をアンキウンの妻に伝えさせ、金を届けるようなことをすれば、三斑点の正体が
世間に漏れてしまうだろう。

「じゃあ、われわれふたりでやるしかないわけだ。」とジンティが言うと、カンピンが否
定した。「いや、わたしは顔を出すことができない。アンキウンの妻はわたしを知ってる
んだから。そんな大金を持っているはずのないアヘン馬車の用心棒がその金をどうしたの
か、そんな詮索をされたらわたしはスマランに住めなくなってしまう。」
ということでジンティが自分で届けざるを得なくなった。

自分はまだムラユ語がうまく話せないとジンティが言うとカンピンが、アンキウンの妻は
福建語をとても上手に話すから大丈夫だ、と言ってジンティを納得させた。[ 続く ]