「クンタオ(23)」(2023年12月20日)

翌早朝のまだ薄暗い時間に、ジンティとカンピンはアンキウンの家がある地区にやってき
て、カンピンは地区のはずれでジンティを待つことにした。ジンティがひとりだけでアン
キウンの家の前に立って表戸を叩いた。戸が開いて50代の女性が顔を出した。

自分はアンキウンの古い友達で、アンキウンが奸計で牢獄に入れられたことを聞いて助け
に来た。4百フローリンの金が封筒に入っているから、罰金に3百使い、残りは商売を再
開するための資金にするように。

その女性は朗報を耳にして歓喜の叫び声を揚げそうになり、それを抑えて相好を崩した。
と見えたのも束の間、続いて感動のために泣き顔になった。「名前を教えてください。」
と頼まれたジンティは、封筒の中に手紙が入っていて、そこに自分の名前もすべてのいき
さつも書いてあるから、アンキウンが読めばわかる、と言って早々にアンキウンの妻の前
から立ち去った。その手紙はアンキウンが読む前に他人に絶対見せてはいけない、という
念押しも忘れなかった。

そのようにしてジンティはスマランでの人助けの仕事を終えると、カンピンの寮を去って
アンバラワに戻った。カンピンの寮のある地域を管轄している地区役人の家へ行って通行
パスの手続きを行い、それから郵便馬車の駅へ行ってアンバラワを通る馬車に乗ったので
ある。


アンキウンの妻は太陽が少し上に昇るまで落ち着かない様子で待っていたが、待ちきれな
くなったらしくよそ行きに着替え始めた。キムキョッが母親に言う。
「母さん、こんな早い時間にどこへ行くの?」
「この罰金を裁判所に納めてもらうよう地区役人に頼みに行くのよ。」
「こんな早い時間には地区役人の家でもまだ事務手続きを始めてないでしょう。」
「でも母さんはとても家で待っていられないから、地区役人にお願いしてきます。」
そう言って封筒の中の金を30枚取り出し、それをポケットに入れて出かけた。

地区役人のソウ・ティアムヨンは自邸の表に立って路上の往来を眺めていた。アンキウン
の妻がやってきて、罰金を渡すから夫の出獄手続きをお願いしますと言い、3百フローリ
ンをソウの手に渡した。ソウは慈父の面持ちを示して「分った、奥さん。できるだけ早く
ご主人が家に戻れるようにする。地区警察役場が開いたら、すぐに手続きに行きますから。」
とアンキウンの妻に約束した。ところでこのお金はどうしたのですかと尋ねたから、アン
キウンの妻は今朝の日の出前に起こったできごとをかいつまんで話した。それが世間に、
旧友に救われたホー・アンキウンの幸運譚として語り伝えられることになった。

その日の正午すぎ、アンキウンが自宅に帰って来た。妻と娘は抱き付いてかれを迎えた。
感動が静まったころにアンキウンが妻に尋ねた。いったいどうやって罰金を納めたのか?
妻はその日未明のできごとを夫に語り、ジンティの手紙を夫に見せた。その手紙を読んだ
アンキウンが「これはわしの知らないお人だ。」と言い出したから、妻と娘は怪訝な表情
で顔を見合わせた。

手紙の中には4百フローリンの素性と三斑点と名乗る怪人がワン・チョッジュワンに対し
て行ったことが説明されていて、アンキウンの一家は自分の庇護下にあるからもうチョッ
ジュワンを恐れる必要はないといったことが書かれてある。しかも手紙の主の名前は明記
されておらず、世を憂う者という言葉で示されているだけだ。善行の対価をまったく求め
ようとしないこの陰徳者に一家三人は感謝の祈りを捧げた。

更に、キムキョッと許婚者のビンリアンを早く結婚させ、保護者を作っておけば変な毒虫
が寄って来ても対処しやすいだろうということで意見が一致し、早々にふたりの結婚式が
行われることになった。[ 続く ]