「クンタオ(25)」(2023年12月22日)

「スマランはそんな危険な町ではないでしょう。スマランの華人社会の頂点にいるマヨー
ルのベー・ビアウチョアンをはじめ、ウイ・チーシン、ウイ・ティオンハム、テー・イン
チャンなどのお歴々の誰一人としてガードマンを連れ歩いているひとはいない。これは何
か特別な訳がおありなのかな?」

クンチュンは親分の悪事が漏れかねない話をしたくなかったが、ジンティにそう出て来ら
れると怪人三斑点のできごとに触れざるを得ない。それで泥棒が鍵のかかっている寝室に
入って鍵のかかっているタンスから金を盗み取った。並の泥棒ではないので並の人間に警
護させても防ぐのはむつかしいだろう。だから高名なクンタオ師匠にぜひお願いしたいと
思っているのです、と語った。

ジンティがツッコミを入れた。その泥棒は全財産を盗んで行ったのですか?だったらもう
やって来ないでしょう。
「いや、盗まれたのはその一部で、まだたくさん残っているから警護をお願いしたいので
す。」
「そりゃ変な話だ。鍵のかかった寝室に入り、鍵のかかったタンスから全財産の一部だけ
を盗む泥棒?泥棒がすることとは思えない。おたくの頭家とその泥棒の間にはもっと違う
問題が絡んでいるのではありませんか?
そんな凄腕の泥棒なら、スマランには高い地位の大金持ちがたくさんいるから泥棒稼ぎに
は困らない。だからたくさんの金持ちの家で事件が起こり、みんな警備を厳重にして当然
となるはずのところ、その泥棒はおたくの頭家だけを狙って入ったように思われる。そい
つは泥棒ではないんじゃありませんかな。」

クンチュンは切羽詰まった。かれは話の方向を変えた。
「確かにそれはただの泥棒でなく、何かの意趣を含んで行われたものかもしれません。し
かし頭家にはその人間の心当たりがまったくありません。なのでぜひ師匠にご出馬いただ
いて、この人間が何者なのかをつきとめていただきたいのです。」

ジンティはやってきたクンチュンがただのメッセンジャーでなく、親分に忠誠を尽くし親
分のために執念深く与えられた仕事を完遂させようとする、まるでうなぎのようにつかま
えどころのない知恵と性格の人間であることに舌を巻いた。

よからぬ願望を抱く悪人が悪知恵を持つ手足を得れば、悪の願望が世に実現して善人が泣
きを見ることになる。悪知恵を持つ手足にも喝を与えなければならない。ジンティはクン
チュンに諭した。

その人間はおたくの頭家の悪事を見かねて、義侠心に駆られてそんなことをした可能性が
ある。そのようなすごい腕を持つ人間は滅多に自分の腕を見せびらかすようなことをしな
い。ということはおたくの頭家の悪事も滅多にないレベルのものだったにちがいあるまい。
大勢の人間を泣かせるようなことをしているのではないだろうか。

だからあなたが泥棒と言っているその人間はおたくの頭家に反省を求め、悪事に走ろうと
する自分の心をもっと強く制御させるための忠告を与えようとしたのではないかとわたし
には思われる。

世の中で正しいことを行って人生を送るのが人間の務めであるはずだ。だからたくさんで
きた金を世間の人間を泣かせるために使うような人間がいれば、人間はお互いに注意勧告
し合って間違った行為をなくすようにしなければいけない。ところが金の力は人間を狂わ
せてしまう。悪い人間が金をくれるために、悪い人間の願望を実現させようとして手助け
する人間が集まって来る。わたしにはそんな人間のひとりになる気が毛頭ないので、おた
くの頭家のお役に立つことはできない。


そう言われて手ぶらでスマランに帰れば、親分は自分を役立たずと見なして仕事をくれな
くなるかもしれない。重用されている手下としての自分の立場を維持するために、クンチ
ュンはもう一押しせざるを得なかった。

「実は師匠、これにはこんなわけがあるんですよ。でもこれは決して誰にもしゃべらない
でくださいよ。師匠の親友にも内緒にしてください。」と言ってクンチュンはキムキョッ
プロジェクトの説明をし始めたのである。[ 続く ]