「クンタオ(27)」(2023年12月28日)

翌日クンチュンはロンボッ小路に行って親分に出張報告をした。ジンティというクンタオ
師は楽をして金を得ることが嫌いで、苦労して得たわずかな金で生きていくのを好む貧乏
根性の愚かな小人だとその人物評を親分に語り、親分の身辺警護を頼むには値しないとい
う説明をしてチョッジュワンを同意させた。チョッジュワンもそれでは仕方がないなと納
得した。このふたりは金銭に関わる処世哲学がよほど一致していたのだろう。

続いてクンチュンは帰途に起こった強盗事件を親分に語り聞かせ、もっと大げさな脚色を
加えて自分の活躍を物語った。4人の屈強な盗賊が出現し、そのうち2人は自分が倒した
ものの、後ろから襲われて自分も倒され、アンバラワ行きの費用としてもらった10フロ
ーリンを奪われてしまった。そう語って背中の青あざを親分に示したからチョッジュワン
も同情し、奪われた10フローリンを補填してやり、さらに慰労のために5フローリンを
クンチュンに与えた。

それはともかくとして、チョッジュワンは結婚したキムキョッを諦めてそのプロジェクト
を放棄したから、怪人三斑点の企ては完全な成功を収めた。謎の怪人の出現は二度と起こ
らなかったのである。

チョッジュワンは改心したのだろうか?どうもそうではなかったらしいが、終に金の力が
ふるえない立場に陥ってしまった。事業に失敗して、全財産が人手に渡ってしまったそう
だ。悪知恵を持つ手足も頭家を替えることになったのではあるまいか。


さてジンティはアンバラワでの暮らしを数年間続けてから、ウォノソボに住む友人に誘わ
れて居所をウォノソボに移した。そこでもクンタオを教え、また医者の仕事もしたから、
弟子や友人知人がすぐに増えた。

かれは昔から独身生活をしてきたので、自分で粥を作り、湯を沸かして茶を淹れるような
ことを平然と行っていたが、ウォノソボの友人たちがそれを見かねて妻を持つように勧め
た。しかしジンティは、妻のいる生活というのは自分に縁のないものと考えている、と言
ってみんなの勧めに従おうとしなかった。

あるときジンティが病気になり、起き上がることのできない日が続いたため、友人たちが
年寄りの女性を雇ってジンティの世話をさせた。ところがそのうちに、お手伝い女性が自
分の用事を優先してジンティの世話に来たり来なかったりするようになったため、その女
性をやめて自分たちが交替でジンティの家へ行って飲食の用意をしたり看病するようにな
った。自分の家で粥を作って持って行く者もいた。

それにはジンティも困り果て、ついに妻を持つことに同意した。どうやらジンティは妻を
持つということを性生活や子孫を作るという目的に結び付けず、家庭内の諸事万端を司り、
また夫の公的生活を後ろから補佐する執事という役割に限定したようだ。友人たちもジン
ティの意思を了解し、その役割にふさわしい女性を見つけてジンティと娶せた。

しっかりした性質のしつけのよくできた娘で、一度結婚したが後家になって実家に戻った
女性がジンティの妻になった。ジンティの意思を了承して再婚する決心をしたこの女性が
ある縁起の良い日にジンティの家に連れて来られ、結婚式の通知など一切世間に出さない
で、友人一同が集まってその結婚を祝福しただけだった。

ジンティの妻は下働きの娘を使ったから、男の一人暮らしだった家の中がふたりの女性に
よっていきなり明るくなった。またジンティは跡継として男の子を養子にしたのだが、幼
いうちに病死してしまった。[ 続く ]