「ヌサンタラのコーヒー(68)」(2024年01月31日)

豆は小型の臼に入れられて、上から杵で打たれる。ヌサンタラの各地で昔から行われてき
た、コメを精米する方法と同じ要領でそれが行われる。コメの場合は量が多いから臼は長
い船型のものになり、棒型の杵を持った4〜5人が臼を打つ。スムンドのコーヒーは少量
だから臼も小型で、人数もふたりくらいが打つ。そんな作り方で1キロのコーヒー豆から
0.7キロの粉末コーヒーができる。

すりつぶして挽かないと粉の粒が粗くなるのではないかと心配するひとがいるかもしれな
いが、十分に細かい粉末になるので心配は無用だとかれらは語っている。作業者の体力を
消耗させる杵うちで作られた粉末コーヒーの味は、機械で粉にされたものよりも美味しい。
そんな古式豊かな伝統製法がスムンドコーヒーの定評を作り出したのである。


ところが実に不思議なことに、プラウパングンの町中で売られている粉末コーヒーは美味
しいと言われる伝統製法のものよりも機械的に量産された劣品質とされているもののほう
がよく売れており、おまけに市価も劣品質の方が値段が高いのだ。

小規模生産者が伝統製法を使って少量を市場に出している商品は、パッケージの品質から
デザインまでが粗雑で、店頭での視覚上の魅力が感じられない。いかにもだれかの手が完
全ハンドメイドの粉を適当に包装し、最後にステープラーでガチャンと針止めした印象を
感じさせている。

大型商店などの大量生産者が機械で作ったものは、美麗で魅力的なデザインのプラスチッ
ク包装がなされ、密封度も高く、人間臭のないものになっている。店頭での価格を比べる
と、たとえば伝統製法商品が1万ルピアとするなら、機械製の商品には1万2千ルピアの
値札が付けられており、高いほうがよく売れているというのが実情になっている。きっと
これが人間世界の縮図なのだろう。


ムアラエニム県スムンド3郡でのコーヒー生産量は2万トンに達していて、県総生産の7
割を超えている。それを仲買人が買い集めて諸方面に流す。だからスムンドから遠く離れ
た地方の大規模粉末コーヒー生産者もスムンド産の豆を容易に手に入れることができる。
諸地方で穫れた豆を混ぜて粉末コーヒーを作り、それにスムンドの名を付けても自分が詐
称行為を行っているとは思わないだろう。

仲買人はランプンやジャンビなどのコーヒー仲買人から注文が入ればそちらにも流す。そ
んなケースでは、他州の仲買人が受けきれない量の注文をしのぐために近隣の州に注文す
るわけだから、生産場所の地名が流通者の意識に上るようなことにならない。どこで産し
た豆かということなど気にする者はいないのだ。

ところがスマトラ島南部では有難い名前で通っているスムンドも、ジャワではまた少し趣
が違っているようだ。バンテン州タングランにある粉末コーヒー生産工場にスムンドから
もコーヒー豆が納入されている。ところがその工場から出て来る製品にはコピランプンの
名前が付けられているのである。


スムンドダラッウル郡プラカッ村のとあるコーヒー農家の主人は、収穫したものを全量仲
買人に売り渡していると言う。かれの話では、仲買人が毎年7月から9月にかけての大収
穫期になるとやってきて、収穫したものを買い取る。大収穫期にはヘクタール当たり1〜
2トンの生産量に達するものの、シーズンから外れるとヘクタール当たりの月産は20〜
25キロ程度にダウンする。その仲買人はかれから買った乾燥豆の4割をバンダルランプ
ンに送り、6割をパレンバンの粉末コーヒー生産者に納めている。地元で粉末にされる豆
の量はほんのわずかしかない。

その仲買人から品物を受けたランプンの業者もパレンバンの生産者も、かれの豆を他の産
地から来た豆と一緒に混ぜてしまうので、産地が粉末コーヒーに与えている特徴は消費者
まで届かないとかれは語っている。[ 続く ]