「ヌサンタラのコーヒー(73)」(2024年02月07日)

実の収穫は赤く熟したものだけが木から摘まれ、また地面に落ちた物も拾われた。地面か
ら拾われる物には、ルアッの糞の中に混じったコーヒーの実もあった。高値が付けられる
ルアッコーヒーを生産するために、20世紀終わりごろにルアッを檻で飼育してコーヒー
の実を食べさせる方式が開発され、動物虐待をはじめとする種々の論争の果てに今では標
準パターンが作られている。

1970年代ごろまでは田舎の農園で採集されるルアッの排泄コーヒーの実が自然に得ら
れていたものの、野生動物の減少の結果、多くの農園からルアッの姿が消え、ルアッコー
ヒーの希少価値が大きく高まった。そのころには、詐称ルアッコーヒーも世の中に増加し
ている。


19世紀後半のサビ病の拡大と1883年のクラカタウ火山大噴火のために、ランプンの
コーヒー畑は多くが滅んだ。クラカタウが吐き出した火山灰は20センチの厚さに降り積
もった。火山灰の微粒子に全身を覆われてしまった植物にとって、無事に生き延びること
は至難の業だったことだろう。微粒子は東風に運ばれてランプンの西部地方に広がった。
コーヒー畑の広がっているブキッバリサンに向かって。そのためにランプンコーヒーは一
時期、灯が消えたような暗黒時代を余儀なくされたのである。だがしかし、火山灰はラン
プンの土地に肥沃さをもたらしたのだ。

1900年代に入ってから、衰微したコーヒー畑にロブスタ種が植えられてランプンコー
ヒーの復活がスタートした。ハジ シャフィイのメッカ巡礼はその活況が生み出したもの
だったようだ。ロブスタコーヒーブームがオランダ東インドを覆い、山地部の標高8百メ
ートル前後から麓にむけてコーヒー木の栽培がランプン・トラジャ・マラン・フローレス
・バリなどヌサンタラの各地で盛んに行われた。

スマトラ島南部で生産されるコーヒーは国内外への船積みがランプンの港からなされるた
めに、南スマトラやブンクルの産品もランプンに集まって来る。その結果、ランプンでの
コーヒー価格相場が南スマトラやブンクルの生産地における仲買人の買取価格をリードす
ることになる。

ヘルマワンは世界の飲用コーヒーの主流がアラビカ種であることを十分承知している。だ
が、ロブスタ種はブレンド用だからアラビカ種の地位に取って代わることができないとい
う悲観論をかれは信じない。ロブスタ種にはロブスタ種の美味さがあり、味覚はひとりひ
とりの個人的な好みによって良し悪しが決まるものなのだから、美味いピュアロブスタの
コーヒーと上手いアラビカを飲み比べて比較してもらうことによって、ロブスタ愛好者が
増加する可能性はかならずあるはずだ。

そんなヘルマワンの信念を支えるかのように、こんな説を語る声もある。地球温暖化によ
る気温上昇が現在のコーヒー栽培用地に影響をもたらし、2050年には今の栽培総面積
の半分近くでアラビカ種コーヒー木の育成が不適当になるという説がささやかれているの
だ。そうなれば、そこにロブスタ種が植えられる可能性が高まる。今よりも温かい地球で
人類が飲むコーヒーはその主流がロブスタに移行するかもしれない。
ヘルマワンはさまざまなコーヒー展示会への参加を増やすようになった。加えて、ルアッ
コーヒーの美味しい淹れ方を研究し、それを世の中に紹介する努力を併せて行なっている。
[ 続く ]