「ヌサンタラのコーヒー(74)」(2024年02月12日)

インターネット内で一般的に用いられているluwakという綴りをインドネシア政府教育文
化省国語センターは認めていないようだ。国語センターが発行しているKBBIに掲載さ
れているのはluakという綴りであり、luwakをKBBIサイトで検索してもその単語は辞
書内に見つからないという返事が得られるだけ。

KBBIでluakはmusangの同義語として説明されている。そうなるとイ_ア語ウィキペデ
ィアが提示しているmusang luwakは二重表現の趣を帯びてくるわけだが、ムサンという語
が示す動物の範囲が広いことからそれを属名とし、luwakはより限定された種名として使
っている可能性も感じられる。それはおまえの考え過ぎだとおっしゃるのであれば、多分
地域性を持つその二語を並べているだけなのかもしれない。昔のイ_ア語=日本語辞典に
はluakもmusangもイタチがその対応語にされていた。

一方、luakもluwakもジャワ語だという解説がイ_ア語ウィキペディアに書かれている。
引用すると、musangはブタウィ語、lasunがスンダ語、luakあるいはluwakはジャワ語なの
だそうだ。ところがジャワ語辞典をあれこれひっくり返して見たものの、そのどちらもが
採録されていなかった。おまけにジャワ語辞典に出ているmusangは蛇退治の名手マングー
スを意味しており、英語で言うcivetとは属が違っているように思われる。再び名称ラビ
リンスの暗黒の扉がわれわれの眼前に口を開けたようだ。


マレーシア語官製辞典Kamus Dewanにはluakもluwakも掲載されておらず、見つかるのは
musangという言葉だけだ。英語でAsian palm civetという言葉をmusang luwakに対応させ
ているのはアフリカ原生種のAfrican palm civetと区別するためだろう。

日本語ウィキぺディアの「コピルアク」の項目に「『ルアク』はマレージャコウネコの現
地での呼び名」と説明されているために、「マレー」の語をマレーシアの同義語と理解し
ている多くの日本人が誤解を起こしているように思われる。いつになったら日本語世界で
ムラユを英語化したマレーはイギリス人にとってマレーシアと同義語になるものの、非イ
ギリス人にとってのマレーはムラユの原義通り、マラヤ半島だけを示しているのではない
というもっと正確な理解に到達できるのだろうか?

イギリス人になりたいと憧れている日本人など居はしないとわたしは思っているのだが、
やっていることはそれを示しているとイギリス人に言われたら、はたしてどんな顔を示し
て見せればよいのだろうか?


ちなみに中国語でcivetには果子狸という言葉が与えられている一方で、中国語ウィキぺ
ディアの世界ではAsian palm civetに対応する言葉が椰子猫という名前にされ、狸から猫
に替わってしまった。おまけに日本人が呼んでいる「コピルアク」を中国人は猫糞コーヒ
ーと名付けている。中国語で「猫☆[口加][口非]」と書かれるコピルアッの☆に位置に置
かれている漢字[カバネの下に米]は日本語の「クソ(糞)」に対応している。

子ザルの脳味噌からネズミの干し肉までさまざまな物を食う中国人にしてみたら猫の糞な
どおそるるに足らずであるとしても、食い物根性の持ち様が違っている韓国人や日本人に
とっては、なかなか同じようには行くまい。

昔、韓国でルアッコーヒーブームが始まったころ、インドネシアにやってくる韓国人バイ
ヤーが地方のコピルアッ産地の農園を訪れて、衛生問題に関する質問を執拗に繰り返して
いたというイ_ア語記事を読んだことがある。生き物の排泄物を飲み食いすることのおぞ
ましさも文明人の観念主義の中に深く刻み込まれた一項目であることは疑いがない。
[ 続く ]