「ヌサンタラのコーヒー(80)」(2024年02月20日)

ヌサンタラ広しといえども歴史上に一度も例を見なかった、ましてやプリブミ原住民のだ
れひとりとして想像したこともなかった、害獣ムサンルアッの飼育係という職業がボンド
ウォソに誕生したのである。獣医だって、ムサンルアッの解剖図や病理学問題の解説など
一度も見たことがなかっただろう。きっと史上初の専門家になったかれらは、日々すべて
が新発見という時期を送ったのではあるまいか。

日本・中国に続いて韓国でルアッコーヒーのブームが始まり、良質の製品を得るために韓
国人バイヤーがインドネシアにも供給を求め、ヌサンタラ各地のコピルアッ生産地を巡遊
することが起こった。2011年6月のコンパス紙記事に、韓国人バイヤーの団体がボン
ドウォソのPTPN XIIを訪問し、同社の製造プロセスを見学して種々の説明を聞いた話が掲
載されている。

その訪問団はPTPN XIIのジャンピッ農園を訪れて、ルアッコーヒー生産の実態を実地検分
した。PTPN XIIが生産しているルアッコーヒーがどこまで本物であるのか、そして生産品
の衛生面から見た処理状況がどうであるのかということに訪問団の興味は強く向けられて
いた。

PTPN XII社担当マネージャーは、すべての生産工程が清潔に保たれており、食品製造の必
須条件は十分にクリアーしているので、実態をすべてあからさまに開示して訪問団に安心
してもらった、と語っている。ルアッの飼育状況も檻の清掃を定期的に行って清潔度を保
っているし、排泄豆もきれいに洗浄してから加工処理が行われている。大腸菌が検出され
たことはない、とのマネージャー氏の言だ。

PTPN XIIは年間8トンのコピルアッを生産し、その4分の1を日本・中国・ヨーロッパに
輸出している。韓国が注文してくれば、生産量を増やして対応するようになる。増産は問
題ないとのことだ。

ボンドウォソ産のルアッコーヒーはアラビカ種の豆が使われている。特に酸味の強いもの
をルアッに加工しているのは、海外市場でそのほうが好まれているからだ、と農園管理マ
ネージャーが語っている。


ブンクル州クパヒアン県は2003年にレジャンルボン県から分離して作られた新県であ
り、それまでクパヒアンに関する情報はレジャンルボンとして語られたり書かれたりする
ことが多かった。

6万6千Haの県域が気温20.2〜29.9℃の高地にあって今では州内の有力なコーヒ
ー産地になっているクパヒアンでも、いくつかのコーヒー生産者がルアッを飼育し、コピ
ルアッを生産している。その中のひとつカバウェタン郡トゥグテジョ村のコーヒー農民組
合はコピルアッ生産に大きな力を注いでいる。

組合長のスセノさんがテレビのドキュメンタリー番組でコピルアッのことを知ったのは2
009年のことだった。自分たちにもそれはできることだとかれは思い、情報を集め始め
たところ、近隣の他の組合で既に行っているところがあることを知ってますます意欲に燃
えた。なにしろコピルアッは普通のコーヒー豆の5〜6倍の値段で売れるのだ。

スセノはまずルアッを買った。一頭40万ルピアで10頭購入し、檻での飼育を開始した。
2011年になってクパヒアン県庁がこの組合にさらに30頭を寄贈してくれた。それだ
けでなく、県庁はルアッの食べ物用として鶏・パパヤ・ミルクの援助を11ヵ月間与えて
くれた。[ 続く ]