「ヌサンタラのコーヒー(83)」(2024年02月23日)

リワの町ワイムガクのプコナン小路には檻ルアッコーヒー生産者が集まっている。そこの
生産者たちはたいてい自分のブランドを持ってコピルアッを生産し販売している。そして
このビジネスに加わりたいひとびとに指導を与え、また必要に応じて援助も与え、自分の
生産グループとして系列化している。

プコナン小路住人のひとりでRaja Luwakのブランドを持つグナワン・スプリアディさんは
2008年にコピルアッ生産者のひとりになった。それ以前からかれは野生動物を飼うこ
とを趣味にしていて、ムサンルアッも飼育していた。あるときかれのムサンルアッを貸し
てくれと友人に頼まれたので、快く貸した。ところがしばらくしてその友人を訪問したと
ころ、友人はルアッにコーヒー豆を食べさせてその排泄物を集めていた。

世の中にコピルアッというものがあることをグナワンはそれまで知らなかったのだ。興味
を引かれたグナワンはコピルアッの情報を集め、世界中で高価な商品になっていることを
知った。かれはこの事業への参入を決意した。

さっそく仲間たちにムサンルアッをできるだけたくさん集めて来るように依頼し、檻を作
って生産体制を整えた。趣味でルアッを飼っていたときに得られた知識が役に立った。

生産が開始され、商品としての粉末コピルアッはできたものの、販売は想像していたより
もはるかに難しかった。かれはカフェやホテル巡りをして売り込むことに精を出すように
なった。売り込み行脚の友連れとして、人間に馴れた子供のルアッをかれは連れ歩いた。
名前だけルアッを騙るニセモノではないことを相手に印象付けるためだ。その努力が稔っ
てラジャルアッの売れ行きが上昇し、最盛期には60頭のルアッが日々コピルアッの素材
を生産していた。


バリ島キンタマニでもコピルアッが作られている。キンタマニ高原部からほんの数キロ離
れたバンリ県ランディ村の一画にイ・ワヤン・ジャミンさんがコピルアッ農園を作った。
2010年に始められた80アールのこの農園には31頭のムサンルアッが放し飼いされ
た。放し飼いというのは、農園の外周をフェンスで覆ってルアッをその中で自由に生活す
るようにさせているということだ。ルアッが別の農園に移住することはできない。

ジャミンのこの事業は、ルアッが本能の中に持っている最上質の実を選ぶ能力を活用させ
ることでホンモノで美味いコピルアッができるという定説に基づいている。檻ルアッコー
ヒーとの究極の違いがそこに生じるはずだとかれは考えているのだ。

その理論に沿って、かれは自分のコーヒー農園2Haのうちの80アールを囲い込み、そこ
にルアッを放した。ルアッは同じような年齢と体格の者を選んだ。小さくて弱い個体は他
の仲間との競争に敗れることが起こる。敗れると他の連中の餌食にされる、とジャミンは
語っている。

5月から7月のコーヒーの収穫期になると、ルアッはコーヒー木の枝から枝に飛び移って
よく熟れた美味しい実を食べ、排泄物を落とす。朝になると農園内には3〜5キロの排泄
物が落ちている。しかしジャミンはすぐそれを拾わない。拾うのは夕方なのだ。日中の日
差しを受けて排泄物は乾燥する。それを集めて洗浄し、きれいにした豆を再度乾燥させて
いる。国際的なコーヒー専門家の評価によれば、ジャミンのルアッコーヒーは味が濃く、
酸味はコーヒーの味覚とバランスが取れていて、酸っぱさが意識に上ってこない。


150Haの広さを持つキンタマニ観光森林の中にも野生のルアッが棲んでいる。森林の中
に地元民が運営するコーヒー農園があり、そこでも野生ルアッの排泄物が採取されている。
スカマジュ村の農民がかれらのコーヒー農園で採取した排泄物をジャミンは買い取って、
自分の持っている販売ルートに流している。ジャミンの農園産のものと天然のものを混ぜ
てしまうのだ。

キンタマニにも檻ルアッコーヒー生産者がいるが、ジャミンの天然コピルアッの生産者価
格は檻ルアッの3倍になっている。ジャミンによれば、ピーベリー豆のコピルアッは天然
コピルアッよりももっと高く、檻ルアッの10倍の値がつくそうだ。一本のコーヒー木に
500〜800個の実が生るものの、ピーベリーはせいぜい5〜10個しか得られないと
かれは語っている。ジャミンのキンタマニ天然コピルアッは既にドイツ・オランダ・オー
ストラリア・日本・韓国・米国などに輸出されている。

コピルアッが糖尿病・脚気・疲労に効果を持っているので、それらの病気や体質のあるひ
とはこれを飲むとよい、とジャミンは勧めている。三ヵ月間続けてみて効果がなかったら、
わたしに抗議してくださいとのかれの弁だ。[ 続く ]