「ヌサンタラのコーヒー(84)」(2024年02月26日)

上で見てきたように、ルアッコーヒー生産プロセスの中でのムサンルアッの扱いにはいく
つかのパターンが見られ、一部の生産者が行っている方法が動物虐待に該当するとしてそ
れを非難する声が西洋世界で湧きおこった。非難はインドネシアの政府と国民に向けられ
て、国際世論が改善を求めているという理解をこの国にもたらした。

その流れの中で、野獣を使って行われる人工的なコピルアッ生産方法が動物虐待であるの
だから、そのような悪事を引き起こしている糞コーヒーをボイコットしようではないかと
いう声も混じったが、人工的生産方法自体が諸悪の根源だという意見はエクストレミスト
の主張のようにわたしには聞こえる。

あるいは野獣ルアッを糞コーヒー豆生産マシーンにするためにコーヒーの実ばかりを食べ
させているのは、ルアッの主食がコーヒーの実でないのだからルアッの健康を損なう虐待
行為だという主張もあったようだ。ルアッの主食とはいったい何なのだろうか?


国際的動物保護団体である「動物の倫理的扱いを求める人々の会」が主要生産国であるイ
ンドネシアとフィリピンに対し、ルアッコーヒーの生産プロセスにおけるルアッの扱い方
法に関する問題提起を行った。同会の国際オペレーション担当副会長がジャカルタを訪れ
て2013年10月17日にメディア発表を行ない、同会が独自に調査した実態を報告し
た。
「世界最大のルアッコーヒー生産国であるインドネシアとフィリピンの村落部で当方が行
った調査結果は、狭く汚い不相応な檻の中でルアッがどんな生活を強いられているかを赤
裸々に示している。当方はその状況に対して大きい注意を払うようインドネシア政府商業
省に申し入れた。インドネシアの国民にも、そのような行為の廃絶を支援するようお願い
したい。」

そのメディア発表の中で、檻の中のルアッが落ち着きのない不安定な精神状態になってい
る姿のビデオ動画が公開された。その画面には、檻の中で少しも休まずに動き回り、檻の
鉄格子を噛み、頭を揺すり続けているストレス状態の一頭のルアッの姿があった。


あるイ_ア語記事によれば、北スマトラ州シディカランとアチェ州タケゴンで檻ルアッコ
ーヒー生産者に対する抜き打ち調査が行われ、ある場所のルアッコーヒー生産者が捕獲さ
れたルアッを狭い檻に入れて一年中毎夜コーヒーの実だけを食べさせていた事実が報告さ
れたそうだ。

その調査でインタビューを受けた生産者は、三年間檻で飼育したあとはルアッを檻から出
して森林に戻していると語った。それについて副会長は「三年間は長すぎる」とコメント
した。自分で木から木に飛び移りながらコーヒーの実を食べている野生のルアッを檻に入
れてそれにコーヒーの実を食べさせ、おまけに過剰な量のコーヒーを無理やり食べさせて
いるとかれは非難している。

インドネシアルアッコーヒー協会役員は同会が非難した内容を否定しなかった。ただし、
すべての生産者がそのようにしているわけではない、と協会役員は述べている。2013
年のその時点でインドネシア政府はコピルアッに関する職業能力評価基準書を作成中であ
り、その中にはもちろんルアッの取扱いに関する諸条件が動物への福祉面を踏まえて盛り
込まれることになっている。ただ、基準書がいまだ未完成状態であるために同会からの非
難に明瞭な回答を与えることができない。それがメディア発表におけるインドネシア側の
反論を歯切れの悪いものにする結果をもたらした。

協会役員によれば、檻のサイズは床面積2x1メートル高さ2メートルが最小条件であり、
ルアッに与える餌は一日5キロ、そのうちの2キロがコーヒーの実で占められる。コーヒ
ーの実以外の餌は果実と肉類になる。ルアッは1キロのコーヒーの実を食べて300〜4
00グラムの豆を排泄する。そんな内容が基準書に盛り込まれることになっているそうだ。


人々の会は生産プロセスの中で起こっている動物虐待問題とはまた別に、ルアッコーヒー
の商品パッケージに記載されている「野生のルアッ」という表現が実態と異なる詐称であ
ると主張し、改善を求めた。それに対して協会役員は、檻に入れてコピルアッを作らせて
いるルアッはすべて野生のものを捕獲して檻に入れているのであり、野生で生まれたルア
ッを野生と形容するのはおかしくないと反論した。ムサンルアッの繁殖場はまだインドネ
シアにひとつもないので、インドネシアで生産されたルアッコーヒーはすべて野生のルア
ッから作られているというのが役員の主張している論理だろう。[ 続く ]