「喫煙がおまえを殺す(後)」(2024年03月15日)

タバコ会社は巨大な売り上げを持つ強力なビジネス組織であり、世の中で受けるイカした
宣伝コピーを作り出せる優秀なクリエイティブチームに高額の報酬を与えることができる
のだ。印刷・ラジオ・テレビの諸メディアがタバコの宣伝広告を厳しく規制するようにな
ったため、タバコ会社は音楽やスポーツのイベントをスポンサーする機関を作った。たい
へんなイロニーではないか。身体壮健を目的にするスポーツの催事を、健康に悪影響を及
ぼす可能性を持っている商品の生産者がスポンサーするのだから。[ 終 ]
ーー ラハルディ氏の論説はここまで。

保健省はなぜ米国FDAのSmoking can kill youの直訳であるMerokok dapat membunuhmu
を使わず、dapatを省略したのか?その答えはムハマディヤ大学教官のワヒュ・ラザッ氏
が2003年に既に書いている。かれのMerokok Dapat Merusak Kesehatan?と題する20
03年6月7日付けコンパス紙に掲載された論説にはこんな記載がある。

・・・クレテッタバコのパッケージには素朴で簡潔な警告文が記されている。Merokok 
dapat merusak kesehatan. ところが白タバコ(non-kretek)はもっと長く明瞭な警告文に
なっている。Merokok dapat menyebabkan kanker, serangan jantung, impotensi, dan 
gangguan kehamilan dan janin ・・・

・・・問題になるのは、dapatの語が付け加えられた点にある。・・・・

・・・この文脈におけるdapatの語義は、KBBI第三版(2001年)によればmungkin 
(belum tentu)に対応している。英語に比較するなら to indicate that it is possible 
for something to happenを意味するmayに対応しているのだ。
ということは、merokok dapat menyebabkan kankerはmerokok belum tentu menyebabkan 
kankerを意味することになるのである。臨床学的に結論付けられた事実を告知するための
警告文という政府保健省の意図にそぐわない矛盾がそこに発生する。・・・

・・・正直さや誠実さを含めて事実にサポートされない表現は意味を形成しない言葉の羅
列、つまりpseudo-statement、ぼやかしの表明にしかならない。シュードステートメント
を使って事実を曖昧にする行為は時によって避けられないこともあるだろうが、それを文
化にしてはならない。
ソクラテスは言った。「偽りの言葉はそれ自体が邪悪なのでなく、それが魂に邪悪さを注
入するのである」。・・・[ 終 ]
ーー ワヒュ氏の論説もここまで。

収税の大きい源泉のひとつとしてタバコ産業界を昔からサポートしてきた行政の姿勢の移
り変わりが今回の話から見えてこないだろうか?2014年に開始されたその政策では、
すべての警告文が可能性を示唆するものでなくなっているのだ。政府は国民に対して「そ
んなことをすればお前は死ぬぞ!」と断言するようになったのである。

「可能性があるからよく考えろ」と言う風土でないという文化行動の面からのアプローチ
ももちろん可能だろう。われわれは再びここで、西洋文化との文化風土の違いに直面して
いるとも言うことができそうだ。[ 完 ]