「ヌサンタラのコーヒー(96)」(2024年03月15日)

ガダNgada県バジャワは県庁所在地だ。県南部の独立したイネリエ山系の東南麓にできた
高原の町であり、標高1千メートルを超えている。海抜2,245メートルのイネリエ火山を
主峰に抱くイネリエ山系は、東西百キロを超えて延々とつながっているマンガライ地方の
広大な山系とは切り離され、そのはずれにポツンとできた数個の山の寄り集まりであり、
それがバジャワの背骨になっている。

バジャワでは1977年にコーヒー栽培が開始された。その年、東ヌサトゥンガラ州政府
はアラビカ種の苗を4株、ロブスタ交配種の苗を4株、ジュンブルから購入してガダ県庁
に提供した。交配種の苗はガダ県庁農業農園畜産局事務所の庭に植えられ、アラビカ種は
30キロ東方にあるカトリック教団所属の農業高校の農園に植えられた。

その翌年、県令の指示によってゴレワとバジャワの二郡でも住民に対するアラビカ種コー
ヒー栽培の普及振興が実施された。それらの政策は順調に進展してバジャワアラビカコー
ヒーの名が世の中に認識されるようになっていった。畑の高度が海抜1千メートルを超え
てさらにより高ければ高いほど豆の品質も高くなると言われている。

2011年データによれば、ガダ県コーヒー栽培面積は6,147Haでアラビカ5,351、ロブス
タ796Haという内訳になっている。アラビカ種のヘクタール当たり収穫量は5〜7百キロ
とのことだ。

ガダの民衆は農作物に祖霊信仰を重ね合わせている。祖霊の喜怒哀楽が農作物の繁殖に大
きな影響を及ぼしていると考えているのだ。だから民衆はアダッの決まりを遵守し、また
社会生活における禁止事項を厳格に守っている。悪い行為や誤った振舞いは不作や凶作の
形で報いをもたらす。そんなことが起これば自分の一家に食糧欠乏が発生するのだから。

豊作は祖霊が祝福してくれたことを証明するものだ。農地の作物に祖霊が祝福を与えてく
れたなら、たっぷりの収穫を阻害する力はどこからも侵入してこない。アラビカ種コーヒ
ーは祖霊が祝福を与えたものであるとバジャワのひとびとは信じている。


とは言うものの、2000年を超えるころまでバジャワで加工された地元産コーヒー豆の
品質が世界のコーヒーファンの舌を満足させるだけのものになっていたわけでは決してな
い。豆には汚れが付着し、色が白っぽくて含水率が高く、焙煎されたものは炭に近かった
から、コーヒー販売業者や輸出業者が目を向けるだけのものになっていなかった。それが
21世紀に入ってから見違えるように変化した。

国際スタンダードに即した正しい加工処理方法が開始され、2005年には欧米諸国への
輸出がスタートした。ドイツ・イギリス・オランダ・オーストラリア・フィリピン・米国
・・・

だいたいどの国も1〜2千トンを求めているが、バジャワコーヒーの生産量は簡単に増や
すことができない。2022年ガダ県のコーヒー生産量は2,602トンと報告されてい
る。限られた生産量をシェアしながら、どの国も毎年発注を止めたことがないそうだ。
[ 続く ]