「世界を揺さぶったスパイス(18)」(2024年05月15日)

【クローブ】
北マルク地方のテルナーテ・ティドーレ・モティ・マキアン・バチャンの島々にだけ生え
ていたクローブの木の花の蕾を乾燥させたものがスパイスとして使われているクローブだ。
スパイスにするためには花が開く前に摘み、しっかりと乾燥させなければならない。商品
としては、乾燥させた蕾のままの形から粉末形態のもの、そして精製されたクローブオイ
ルという液体のものまで販売されている。

世界の他の場所にはどこにも、インドネシアの中でさえ他の土地ではどこにも、クローブ
の木は存在していなかった。今では世界のあちこちに植えられており、インドネシア・マ
レーシア・ザンジバル・タンザニア・マダガスカル・西インド諸島が現代世界におけるク
ローブの有力な生産地に数えられている。

2023年の世界クローブ生産実績によれば、1位はインドネシアの10.9万トンで世
界総生産の7割を占めている。次いでマダガスカルが1.1万トン。そしてタンザニア、
スリランカ、コモロと続く。

2020年のインドネシア国内州別生産順位は、マルク 20,695、南スラウェシ 
20,176、中部スラウェシ 19,798トン、東南スラウェシ 13,433、東
ジャワ 10,944、北スラウェシ 10,110、西ジャワ 9,036、中部ジャ
ワ 7,381、アチェ 5,661、北マルク 4,257、(数字はトン)となって
いる。


やはりマルク地方のバンダ群島だけに生えていたナツメグの木と同じように、クローブの
木も海抜5百から7百メートルの山の斜面を最適生育地にしている。この木は高温多雨気
候の緩い土壌を好む。雨は一年を通して平均的に降るほうが良い。そんな気象条件の山稜
では土が常に水を含んでいるのだ。

ガマラマ、キエブシ、イブ、その他の火山の存在がクローブの木を育み、マルク地方の特
産物にした。それはバンダのナツメグも同様だ。今日ではマルク地方のあちこちでクロー
ブとナツメグの木が肩を並べて植えられている。

火山性土壌はマグネシウム・カルシウム・ナトリウム・カリウムを豊富に含み、クローブ
とナツメグの木を健康で巨大な規模に発育させる。その結果が多量の収穫物の生産をもた
らした。おかげでマルク地方のクローブ農民は木に施肥する必要がなく、昔からほとんど
木の世話を何もしないまま収穫だけを行っていた。おまけにその収穫物を買いたいひとび
とが世界中からやって来て取引をし、黄金並みの対価を地元民に与えたのである。これこ
そが夢に描いた地上の極楽とだれしも考えるにちがいあるまい。

しかし地上の極楽には魔が吸い寄せられてくるものなのである。拙著「マルクの悲惨」は
その宿命を物語ったものだ。


上述の北マルクの5つの島で天然に育ったクローブの木は、いくつかの樹種に分かれてい
た。afo, tibobo, tauro, sibela, indari, air mata, dokiriなど豊富な種別が存在して
いることを原産地の証明と見なす学者もいる。

アフォ種の木は巨大化するようだ。テルナーテ島のガマラマ火山観測ポストから2キロほ
ど離れた標高8百メートルの場所にかつて世界で最も長寿のクローブの木があった。樹齢
416年に達し、老齢のために2000年に崩壊した。樹高は36.6メートルで幹の直
径は1.98メートル、胴回りは4.3メートルあった。それがチュンケアフォIと呼ば
れているクローブの木だ。

その後継者たるチュンケアフォIIは樹齢が3百年超で、樹高30メートル、幹の胴回りが
大人二人で抱える大きさだった。この木はアフォIの場所から1キロほど下った標高4百
メートルのところにあった。ところがチュンケアフォIIも息絶え絶えになってしまったの
である。地元民の話によれば、この木を歴史遺産として保護するために県観光局が民衆と
相談もせずに木の根の周囲をコンクリート壁で囲ったのが原因なのだそうだ。この木は2
019年に強風のために倒壊した。[ 続く ]