「ラ ガリゴ(5)」(2025年06月08日) ジャワでDewi Sriという名で呼ばれている稲の神はスンダでNyi Pohaci、そしてブギスで はSangiang Serriと変わる。各地方の文化でこの神話はすこしずつ異なっているものの本 質は酷似していて、ひとつの原作が伝播する中で地方性のバリエーションが加えられた印 象を与えている。ブギス人の稲神話もラ ガリゴの中に登場する。ブギスの古代神話によ れば、サンギアンスッリはこのように物語られている。 天上界の頂点にあるパトトケとパリンゲッ夫妻の屋敷に夜明けが訪れた。ふたりは末娘の ウィ オッダンリウッを呼ぶように召使に命じた。ところがウィ オッダンリウッは自分の 居房から外へ出るのを嫌がった。なぜなら、かの女が外へ出て来ると天上界の若い衆がど っと集まって来てかの女の美しさを愉しもうとし、騒ぎが起こるからだ。神々の子である 天上の若い衆はどんな代償を払ってでもウィ オッダンリウッを妻にしようという望みを 一様に抱いているのだ。 これは社会に事件を招く種だとパトトケ夫妻は考えた。この末娘を早く結婚させなければ ならない。相応な家格の青年をオッダンリウッに選ばせて、結婚させよう。 天上界の若い衆が全員参加する大闘鶏大会が開催された。会場では早朝からニワトリを抱 えた青年たちが集まって来て自分のニワトリが優勝するように仕付けている。優勝すれば オッダンリウッが自分を認めてくれるだろうとかれらは考えているのだ。 オッダンリウッも身支度を整えて居房から外へ出てきた。ところがかの女の美しさが7枚 の網布と7枚の織布を重ねた衣服を中から突き抜けて外に発散したために、着衣の下の裸 体が筒抜けに若い衆の目に映ってしまった。なんと、闘鶏会場は一瞬にして気絶した若者 たちが折り重なって転がる修羅場になってしまったではないか。 しばらくして目を覚ました若い衆が見たものは、美しい長い髪を振り回して聖水を撒き散 らしているオッダンリウッの姿だった。若い衆は聖水で意識を取り戻したのだ。 翌日、パトトケ夫妻はオッダンリウッを天上界の外へ出さねばならないという結論を下し た。天上界は整然とした秩序で運営されなければならない。どこへ送り出すか。それはも う地上界しかないでしょう。 天上界から地上界へ移動する際に、オッダンリウッは意識を失っていなければならない。 パトトケは剣を抜き、その先に「困惑の水」を垂らしてからオッダンリウッ目がけて振っ た。オッダンリウッは気が遠くなった。 その身体を籠に載せて地上に送ろうとしていたとき、パトトケ夫妻に報告が届いた。天上 界の若い衆が暴れていると言うのだ。大勢の若者が自分もオッダンリウッを追って地上へ 行くと言い、それを止める者と争っている。天上界から若者がいなくなったら一大事だ。 オッダンリウッを地上に送るのはまずい。だがオッダンリウッに意識を取り戻させるため には地上に送る以外に方法がない。 パトトケ夫妻は仕方なく、末娘を死んだことにして葬儀を営んだ。40日間の喪が天上界 を包んだ。[ 続く ]