「ラ ガリゴ(終)」(2025年06月11日)

しかしオッダンリウッはまだ心の中に満たされないものを感じていた。兄弟姉妹から切り
離されて、自分はこの地上でひとりぼっちになっている。レッテッ・パタロッとその妻が
地上に降りてきてはいても、かれらは自分の従兄弟姉妹なのだ。やはり直の肉親と交わす
情愛の交流とはその心地よさに違いがある。

末娘のその嘆きをパトトケ夫妻は聞き届けて、長子のラ トゲッ ラ~ギッ バタラ グルを
地上に降ろしてルウの王にすることを決めた。さらに大勢のト マヌルンとト トンポッた
ちが続々と地上に降りて、地上のあちこちに王国を作るようになった。こうしてルウ、チ
ナ、トンポティッカ、ウェワンリウッ、スンラ、ギマなどの王国が誕生した。それぞれの
王統の系譜がスレッガリゴの中に詳述されている。それぞれの系譜には5世代にわたる子
孫が網羅され、全部で150人の主要人物が登場する。各王国の子孫は婚姻関係を結んで
親戚になり、地上での人間の暮らしを作り上げていった。もちろんその中にサンギアンス
ッリを人間の主食として普及させる役割も含まれていた。


本論の冒頭に描かれている人類誕生のエピソードと稲の神話の間に矛盾が生じていること
を読者は既にお気付きだろうと思う。たくさんの人間が互いに相談なしに、しかも何世代
にもわたって独自に作った個々のストーリーを集めたものがラ ガリゴというエピック誕
生のプロセスであったことがそこに投影されているように推測できる。

ただし少なくとも、文字化されたラ ガリゴのロンタルが集められてスレッガリゴという
ひとつの書物に集大成されたとき、その作業に関わった限られた筆者たちの間で全体の内
容に論理化と物語の方向付けが行われただろうことは想像に難くない。

にもかかわらず、人類を誕生させたバタラ グルが人間のために地上に降ろされたサンギ
アンスッリを慰めるために地上に降りてきてルウ王になるのでは、話のつじつまが合わな
くなってしまう。それもそのはずで、稲の神話は19世紀に書物になったスレッガリゴの
中に含まれていなかったのである。このエピソードはもっと後になって発見されたものな
のだそうだ。だからスレッガリゴの書が作られる中で行われたと推測される論理化がサン
ギアンスッリのこのエピソードをカバーしていなかったために起こった矛盾ということに
なるのだろう。たとえそうではあっても、あくまでこれもラ ガリゴの一部を成している
という本質を否定することはできないはずだ。


サンギアンスッリのエピソードは終盤を迎える。地上の諸王国を構築した天上界の者たち
はすべて天上界に戻り、天上界は最後にその扉を閉じて地上界と断絶する。しかし稲は地
上に残って谷間や平地を埋め、人間を歓ばせるのである。ただし、人間が星占で定められ
た季節に従わず、義務付けられた農業儀式を行わず、神への拝礼を怠るとき、稲は実を付
けなくなるのだ。人間のそんな振舞いはサンギアンスッリを不快にさせるために収穫が得
られなくなり、人間は神の怒りを受けて空腹を抱えることを余儀なくされるのである。
[ 完 ]