「デリのニャイ(17)」(2025年07月07日) カンカンカンカンと続けざまに鐘の音が大きな音で鳴らされた。農園のクーリーを起こす ための夜明け前の鐘だ。トアンがロスミナを揺り起こす。 「起きなさい、ミナ。コーヒーを淹れてくれ。1時間したらわたしはクーリーの働き具合 を見回りに行かなければならない。」 「まだ寒いわ。」と毛布を抱きしめたものの、トアンを不愉快にしてはまずいと思ったロ スミナは飛び起きると急いで台所に向かった。湯を沸かすのだ。 半時間後に食卓には朝食の用意ができていた。トアンはミルクコーヒーを飲み、バターを 塗ったパンを何切れか食べると、そのまま管理人館の事務所に向かった。眠いばかりのロ スミナは食事の後片付けをすると、またトアンの寝室に入ってベッドに転がり込んだ。ド アも閉めないままで。 自分の部屋で寝ていたカスミンは夜明け前の鐘に起こされたが、しかしそのまま部屋でじ っとしていた。全身の神経を集中して、トアンが家から外出する気配を感じ取ろうとして いた。しかし得られるものはなかった。 広間のテーブルで食事する音が聞こえ、音が聞こえなくなっても、トアンが出かけたかど うかは判らなかった。ちょっと間をおいてから、カスミンはおそるおそる部屋から出た。 ロスミナに話をしたい。そして久しぶりにわが妻の身体も。 カスミンは広間に来てから周囲の状況を探った。人の気配がしない。咳ばらいをしてみた。 トアンが出てくるかと思ったが、トアンもロスミナも出てこない。もしもトアンが出てく れば、腹具合がおかしいので薬をほしいというようなことを言えば済む。 開け放たれているトアンの寝室を覗くと、ロスミナがひとりベッドで寝ている。カスミン はやっと安心して部屋に入り、ロスミナを揺り起こした。目覚めたロスミナはカスミンが いるのを見て言う。「あら、あにさん、もう起きたの?」 「おまえがすることを教えに来たんだ。いいか、給料日になったらおまえは買い物に出か ける許しをトアンからもらえ。自分の身を飾るために黄金やダイヤの耳飾り・腕輪・ピン ・かんざしなどを買いに行くとトアンに言うんだ。それを給料日にいきなり言うんじゃな くて、少しずつ早めにトアンの耳に入れるようにするんだ。」 ロスミナはドアが開いているのに気付いてカスミンに言う。 「あにさんがここにいるのをだれかに見られたらたいへんよ。ドアを閉めなきゃ。」 カスミンが即座に立ってドアをそっと閉めた。そして自分もベッドに上がりながら 「そうすりゃ、トアンは給料の半分をお前に渡してくれる。」 とロスミナにささやく。そして夫が妻にすることを行い始めた。ロスミナはカスミンの頭 を抱きしめる。列車の中で再会したあと、カスミンはずっとロスミナへの疼きを我慢し続 けていたのだ。 朝の7時を過ぎたので、カスミンは身を整えると監督人頭の家に向かった。監督人頭の話 を少ししておこう。監督人頭の家にはビニがふたりと18歳の息子がひとり住んでいる。 ふたりのビニは華人女で、年齢も少し離れている。最初の女ボッ・クウィホアをシンガポ ールで買い、何年も経過してから二人目のケン・ホアブウィを同じようにした。そのため に何千ドルもの金を使った。 息子は中国にいるイストゥリとの間にできた子供で、二年前に自分の仕事を手伝わせるた めに中国からデリに呼び寄せた。二年も経過したからこの息子はムラユ語も相当に使える ようになっている。父親よりも上手だ。[ 続く ]