「続・印尼華人の実像(終)」(2025年07月10日)

諸神を祀っている中国寺院にはその寺院を代表する神がいる。2012年10月21日、
ヌサンタラの各地にある90軒の中国寺院が各々の守護神を戴いてグロドッのぺタッスン
ビランにあるエマヌエル小学校に集まった。なにしろ全国各地にいる中華文化の伝統男女
神90者が一堂に会したのである。困り事や悩み事をたくさん抱えている人間にとっては
便利な機会だ。

その日曜日の朝から、グロドッのクムナガンVIII通りには人間があふれた。中華音楽の打
楽器が打ち鳴らされ、大勢の人間のざわめきが近隣一帯に立ち込める。会場になった小学
校の中では、赤布の敷かれた長机が三列に並べられて狭い会場内をびっしりと埋めている。

机の上には線香を差す大きな甕が離して置かれているが、その間の空間はお供えの花や果
実で隙間なく埋めつくされている。数百人の華人たちが会場内にあふれ、香を焚き、合掌
して祈りを捧げている。

これは諸神が行う神界の大総会であり、人間が訴え事や願い事を多くの神々に聞いてもら
うための機会になっている。諸神が衆知を集めることによって、問題の解決が高度なレベ
ルで行われることになるのだ。ある中国寺院世話人はそう解説した。

しばらくすると諸神の像が建物から出され、外で待っている神輿に向かう。しかし外の群
衆が神像に触ろうとして押し合いを演じるので、神像は容易に神輿にたどり着けない。神
像の載った神輿は順番にそこを離れてプチナン巡りを開始した。たくさんの人間がそれを
取り囲んで行列を作り、行進する。先頭には大きな旗を持つ者、そしてドラゴンダンスや
バロンサイと音楽隊も中に混じり、ガジャマダ通りからマンガブサール地区へと回る。陰
暦正月十五冥の祭りと同じようなことがその日行われた。


オルバ期の同化政策によって華人社会の芸術芸能が社会性を抹消されてしまったことは上
で述べた。伝統中華文化の華である琴棋書画の栄える場が華人コミュニティの中から消滅
したのである。32年間という長い歳月を越えて生き残っているとすれば、むしろ奇跡の
ようなものかもしれない。

ジャカルタコタ地区内のグロドッパンチョランエリアにその奇跡的な人物がいる。リウ・
レンチェン氏が2006年時点で現存する唯一の書法(中国カリグラフィ)専門家だとい
う話が上がっていた。

グロドッのクムナガンVII通りに住むリウはプトジョエンチュレッに住む人物を師に仰い
で20数年を書法の研鑽に費やした。チンチシュウホア(琴棋書画)を嗜むことは優れた
人間として世に立つ華人の必須技芸だった。リウはその中のシュウの道をわが人生として
選択したのである。

似たような思想がジャワにもあり、wisma, turangga, garwa, kukilaが世間に認められる
ジャワ人が持たねばならない必須条件だった。ただしこちらは技芸でなくて、住居・乗り
物・妻・高雅な趣味がその四つだ。

中華寺院の装飾、華人コミュニティ内の招待状などから薬屋の商品札に至るまで、美麗な
漢字の書を望むひとがリウのところにやってくる。それらの需要に対する供給者が他にい
ないのだから、リウは多忙な毎日に明け暮れている。

「今の若い人の中にこんな仕事をしようと考える者はあまりない。これはわたしの生きる
道であり、自分に満足をもたらすものなのだ。」オルラ期に中華学校で学んだリウはそう
述べている。中華学校はオルバ政府が閉鎖した。昔、ある華人系の大人が厩舎を置いてい
た場所に作られた小路の中の小さい家に住んでいるリウの暮らしは質素に営まれている。
[ 完 ]