「デリのニャイ(28)」(2025年07月18日)

ところが再開された農園の日常は、休み前の2週間と異なるものになった。ロスミナのト
アンにとっても、そして監督人頭の一家にとっても。いや、その変化は休みになる数日前
から既に始まっていたと言うほうが多分正確であるかもしれない。

ロスミナの部屋に通うようになった監督人頭は休日にロスミナとカスミンが家にいなくな
ったのに驚いた。ふたりはシアンタルに買い物に行ったと聞いて、かれは地団太踏んで悔
しがった。自分にそれを教えてくれたら、一緒に行ったのに。しかしもう手遅れだ。

ところが、息子のチューケンが一緒にシアンタルへ行ったことに父親は全然気付いていな
かった。自分が息子の恋敵になったことすら、かれは気付いていなかっただろう。

監督人頭はロスミナとの逢瀬と恋慕にのぼせあがり、仕事が手につかないばかりか、家の
中の様子にも疎くなっていた。一家の主婦役を務めさせていたホアブウィにも冷たい顔を
向けてホアブウィを絶望の谷底に突き落としたのである。いやいや、ホアブウィを突き落
としたのは一家の主婦の座をホアブウィに奪われたクウィホアだったと言う方が正確かも
しれない。


主人が自分に関心を向けなくなり、口もあまりきかなくなったのだから、ホアブウィの心
は不審と不快に満たされた。

「わたしはどんな失敗を犯したのだろうか?主人からそっぽを向かれるようなことをした
覚えはない。小ボスがあのロスミナという女を連れてきてから、わたしの主人は人変わり
したように変わってしまった。わたしへの関心も、この家庭を指揮することも、全部投げ
出してしまったように見える。前はこの家庭の体面を恥ずかしくないようにするために気
を遣っていたのに、そんなものはもう蒸発してなくなってしまったみたい。」

そんな第二ビニの心の中など、どこ吹く風。昼食を済ませてから監督人頭は応接の間の縁
台に寝そべってアヘンを吸いながらロスミナとの自分の交わりを空想していた。
『早く明日にならないかな、早くロスミナが戻って来ないかな。』
そしてそのうちにアヘンが回って深い眠りに落ちた。


太陽がもう西の山稜に触れんばかりに傾き、夜の足音が近付いてきたというのに、監督人
頭は縁台から起き上がろうとしない。夕食を用意したホアブウィがそれを知らせに行って
も、生返事しか返ってこない。監督人頭は縁台の上でごろごろしているだけ。しつこく言
うと監督人頭が自分に本気で怒るようになったから、一回言っただけでかの女はすぐに引
っ込んだ。主人のそんな態度は小ボスのニャイが来てから始まったことだ。前はあんなに
自分に優しかったのに。ホアブウィは自分の運命を呪った。

ホアブウィは子供のころから自分を育ててくれた女を母親と呼んで大きくなった。そして
母親が命じることをしてたくさん金を稼いだ。ほとんど毎晩、知らない男に自分の身体を
開いた。そんな暮らしが何年も続いていたある晩、シンガポールに来た華人が大金を払っ
て自分を買い、スマトラの山の中に連れ帰った。

しかしそこには自分が一家の女主人になる場が用意されていたのだ。ホアブウィは生まれ
て初めて、自分がなにがしかの人間であるという思いをそこでの生活の中で味わった。前
からいたビニは年上であったにもかかわらず、自分の妹分として扱った。自分の主人も古
いビニのクウィホアを邪魔者扱いしていたのだから。

そしていま、ホアブウィもクウィホアの立場に追いやられようとしていることが明らかに
なった。このような女の宿命を呪わずにいられようか。ホアブウィは声をしのんで泣きく
ずれた。[ 続く ]