「デリのニャイ(29)」(2025年07月19日) 主人が新しい女に恋情を抱いたために古い女を邪魔者扱いするようになったことはホアブ ウィにとってもう明白な事実だった。その恋情の対象が小ボスのニャイであるかどうかに ついてはまだ確信が持てなかったものの、それを最有力な可能性としてかの女はとらえた。 しかし、その疑惑の確証を得るために主人と喧嘩して反応を見極めるようなことはホアブ ウィのやり方でなかった。ホアブウィの自尊心は普通の女よりも高かったのだ。嫉妬とい うものをホアブウィは賤しいものと価値付けていた。嫉妬に駆られて男と喧嘩する女の狭 量さをホアブウィは嫌った。 だからホアブウィがクウィホアの立場をこの家庭の中で奪ったときも、自分はクウィホア をフェアに扱うつもりで接した。血のつながった妹のように扱い、是々非々で自分の態度 を決めることにした。嫉妬や嫌悪の感情をごちゃ混ぜにしてクウィホアに接するようなこ とはしなかったとホアブウィは思っている。 だからもしも主人がまた新しい女をこの家庭に連れ込んで女主人の座をその者に与えるの なら、自分とクウィホアは一蓮托生になるのだから、ふたりが協力して事態の変化に対処 するのが当然と考えた。クウィホアとこの問題を話し合わなければならない。 クウィホアの部屋のドアがノックされたので、クウィホアは尋ねた。 「だれ?」 「わたしよ。ねえ、ちょっと話をしない?」 それがホアブウィの声であることがすぐに判ったから、クウィホアは急いでドアを開け、 ホアブウィを室内に招じ入れた。ちょっと他愛ない話をして言葉を交わしてから、ホアブ ウィは本題に入った。 「最近、チューケンの父親の様子がおかしいでしょ?前みたいにちゃんと仕事をしていな いじゃないの?」 「さあ、仕事ぶりまではあたしには分からない。でもムラユ人の男が家によく遊びに来る ようになった。」 「そのムラユ人の男ってどこのひと?」 「チューケンの話だと、その男の姪が管理人助手のニャイになったので、その男も小ボス の家で下男に雇われたそうよ。」 「小ボスのニャイになった女ってどんなひと?」 「あたしもそれをチューケンに聞いたのね。そしたらなんと、まるで天上から降りてきた 天女のように美しい女だって言うの。」 ホアブウィの顔が青ざめた。そうやって男たちがほめそやす女がどれほど男を引き寄せる 魅力を持っているかということをホアブウィは知っていた。 「チューケンの父親もその女に気があるようなことをチューケンは言わなかった?」 「気があるどころじゃないわよ。もう恋のとりこになっちゃって、この家にもらい受けて きて、ここで一緒に暮らしたいんだそうよ。」 クウィホアの言葉はホアブウィを打ちのめした。自分のみぞおちに当てていた手にホアブ ウィは力を込めた。そうしなければ自分の腹の奥底が空中浮遊してしまいそうだった。 『あらまあ、神様。このわたしはいったいどうなるの?』 という言葉をホアブウィは喉の奥にしまいこんだ。クウィホアが続けて言う。 「あたしだって、そんなことになるのはまっぴらごめんだわ。あたしたち華人女がプリブ ミ女と一緒に同じ家の中で妾にされるなんて、華人社会の恥さらしよ。ましてや主人がプ リブミ女を一番気に入って、華人女がプリブミ女の足元にひざまずかされるんだから、世 間に示す顔がない。そんな大恥を抱えて生きるよりも、死んだ方がましでしょ?死ぬしか、 あたしたちの名誉を守る方法はもうないかもしれない。」 クウィホアはそう言って長い溜息をついた。[ 続く ]