「デリのニャイ(32)」(2025年07月22日)

監督人頭は一家庭の大奥様の葬式にふさわしい格式の葬儀を、大金をはたいてホアブウィ
のために行った。世間、と言うか地元の華人社会におかしな風評はまったく流れなかった。
自殺そのこと自体がたいした恥と見なされず、その者を自殺に追いやった原因の中にネガ
ティブな要素があるのをほじくり出して社会はその自殺事件に恥辱の色を塗るのである。
ホアブウィの脳裏に組み立てられたロジックを知り得た人間のいたはずがない。

ただし我が家の大奥様の葬式のすべての手順を監督人頭は、自分が信頼する華人仲間のひ
とりに丸投げした。ロスミナにべた惚れしたために顔を見る気も無くなった古いビニにこ
れ以上関わる気持ちは完全になくなっていたのである。かれは仲間が請求する通りに金を
払うだけだった。

翌日になった。監督人頭の家の中は葬式のためにごたごたしていた。日が高くなっても物
音がしないチューケンの部屋にクウィホアが入った。チューケンはぐっすりと眠っている。
「もう11時よ。起きたら?」

チューケンは目を覚まし、ベッドの上でしばらく身体を動かしてから、起きて顔を洗い、
軽く食事した。チューケンはまったく義母に関心を示さず、相手にもしなかった。心の中
をロスミナが占領していたのだ。そのロスミナはチューケンの心に嫉妬の炎を燃え上がら
せるばかり。


チューケンはロスミナに会いたい一心で、裏道を通って管理人助手の家の脇から敷地内に
入った。そのときカスミンは庭に出ていて、やってきたチューケンと出くわし、驚いた。
というのも、そのとき監督人頭がロスミナの部屋に来ていたからだ。チューケンがロスミ
ナの部屋へ行ったら大騒ぎが起きるだろう。そんなことになれば、カスミンとロスミナの
このビジネスは廃業になるのが明らかだ。

「若頭家、どこからおいでなすった?」
邪気のない笑顔を満面に浮かべてカスミンが声をかける。
「ロスミナに会いたい。」
「今は寝てるよ。でもしばらくしたら起きてくるから、そしたら話ができる。」
「起こしてくれ。構わないだろう?」
「だめだよ。わしが会わせたくないんじゃなくて、ミナは普通の娘と少し違う所がある。
寝ているときに起こすと、ものすごく不機嫌になって怒りまくるんだ。だから、眠ったと
きはそっとしておいてやらないと、周りの者に嫌な結果が降りかかることになる。」
ロスミナに嫌われたくないチューケンはその説明を真に受けて、今すぐに会うことを諦め
た。
「いつごろ起きる?」
「夕方だろう。トアンが帰って来るころには起きている。ババは明日出直してくるほうが
いい。」

その日諦めたチューケンが翌日出直してくるとカスミンが見張っていて、またロスミナは
寝ていると同じことを言う。本当はチューケンの父親がロスミナと寝ているのである。こ
の監督人頭は一日たりともロスミナの肌に触れないでおくことができなくなったようだ。
仕事はどんどんとおざなりになっていった。

チューケンもロスミナへの恋情を一日、また一日と先延ばしされ、鬱憤が積もり続けた。
ホアブウィの死から一週間が経過した日の夜、思いがけなくカスミンが監督人頭の家を訪
れた。ロスミナのトアンが町へ出て、今夜は戻らないそうだ、という朗報をカスミンが届
けに来たのだ。監督人頭は躍り上がって喜んだ。ベッドの上でロスミナと一晩ゆっくり過
ごしたいという願望を間男が持つのは自然な人間心理だろう。

監督人頭は朗報の謝礼をたっぷりとカスミンに渡すと、カスミンの後ろに付いて管理人助
手の家に向かった。[ 続く ]