「デリのニャイ(33)」(2025年07月23日)

話はロスミナ、カスミン、チューケンの三人がシアンタルへ買い物に出かけて帰って来た
日、監督人頭のビニであるホアブウィの自殺事件が農園内を賑わせた日に戻る。

休みが終わってまた農園に多忙さが戻って来た。管理人助手は新しいニャイとの新生活に
も慣れた。その結果、生活のリズムと精神生活に安定さが増したかと言うと、生活のパタ
ーンは向上したものの、精神生活の方は悪化した。ロスミナのトアンは何かがおかしくな
っている、という気分の中に落ち込んだのである。

何か自分の知らないところで悪いことが進行中であるような第六感がトアンの気分をすぐ
れないものにしていた。日がたつにつれて、その憂鬱は黒い影をますますくろぐろと深め
ているようにかれには感じられた。

休日にロスミナがシアンタルで買ってきた宝飾品の総額がどう見ても3百ルピアでは収ま
らないということをかれの目は見破っており、そのこともかれの憂鬱を強めることに一役
買ったとはいえ、それは別のことがらがもたらしている憂鬱を強める要因として作用した
だけであることをかれの透徹した意識は十分に覚っていた。

何がどうだというはっきりした根拠が思い当たらない状態のまま、自分の日常生活の一部
に薄暗い幕が掛かったような気分をかれはここ何日間も味わっている。

買い物についての不審はロスミナとカスミンを見るかれの目を変えた。最初は歓待して頭
から言うことを信じていたそのふたりに対して、疑惑の気持ちが浮かぶようになったので
ある。ふたりとも初めてここへ来た時と同じようにふるまっているにもかかわらず、かれ
がふたりと接するとき、不快な気分が湧いて来るようになった。これはいったいどうした
ことだろう。自分は魔に翻弄されはじめたのだろうか?


休日から一週間が経過したある日、夜明け前の鐘が鳴ってもトアンが起きてこないので、
ロスミナがトアンを起こそうとした。するとトアンは眠っておらず、ベッドの上でぼんや
りしていた。
「トアン、もう遅いですよ。今日は仕事に行かないの?」

トアンはロスミナに返事せず、ベッドから降りて顔を洗いに行った。そして仕事着に着替
えると、朝食も摂らないで事務所に向かった。事務所へ行くと、農園管理上の問題で管理
人が助手にお目玉を食らわせた。よくあることだからかれは過剰な意味付けをしなかった
ものの、それがかれを行動に向かわせるはずみをつけた。

昼食の時間が来たので、かれは普段から目をかけている、人間的によくできたジャワ人ク
ーリーを呼び止めた。
「占いに長けたドゥクンを知らないかね?」
「いますよ。トゥビンの町に何でも見通す力を持っているドゥクンがいます。あちこちの
農園のトアン方もよくこのドゥクンを利用されてます。よく当たると言って、たいそうな
評判です。」
「じゃあ今夜、そこへわたしを案内してくれないか。相談したいことがある。」

ドゥクンが超能力を持っていることを信じている西洋人も少なくない。かれ自身も農園管
理人助手仲間からドゥクンに関する体験談を聞いたことがある。個人的な問題の構造をド
ゥクンが解き明かし、実際に現実がその通りであったという話をかれに語った西洋人もい
た。プリブミ女にひどい仕打ちをすると、女はドゥクンの力を借りてブラックマジックで
復讐するという話は20世紀に入っても信じられていた。[ 続く ]