「デリのニャイ(36)」(2025年07月26日) そんな成り行きからロスミナのトアンはニッポンホテルで部屋を借り、同僚のニャイのミ ンとふたりで部屋に入った。ミンが恐れた通り、ロスミナのトアンがやってくる前にかの 女がニッポンホテルの食堂にひとりでいたのをもう誰かに見られており、その話はミンの トアンの耳に入っていた。翌日ミンが農園に帰ると、トアンが皮肉っぽく尋ねた。 「昨日の夕方、もうトゥビンまで戻って来ていたのに、なんで家に帰らなかったの?」 ミンはにっこりと笑ってトアンに説明した。 「あのとき、サドが一台もつかまらなかったのよ。もうすぐ夜になるんだし、だからホテ ルにもう一泊しちゃった。」 男と女の人口比が偏っている土地では、女は男に精一杯装って見せ、芝居を演じて自分の 姿を肥大させて示すようになる。男と一緒にコメディを演じようとするのだ、とこの小説 の著者は書いている。ありのままの自分の姿を正直に示そうとするような女は虚栄の市に 立つことができないということなのだろう。 ふたりだけでホテルの部屋に入ると、ミンがロスミナのトアンに尋ねた。 「こんな夜に農園から町に降りてくるなんて、何の用事なのかしら?」 「逃げたクーリーを捕まえてこいとビッグボスに命じられたんだ。」 ミンがふざけた。 「トアンはあたしを捕まえるんでしょう?じゃあこの身柄をおとなしくトアンに引き渡し ます。」 そう言ってミンはトアンの膝の上に座った。 「おや、ミンの身体はすごくいい匂いがしてる。」 「ポンペアの香水を買ったのよ。ミンが払った3ルピア、トアンが立て替えて。」 「なんでわたしが払うんだ。あんたのトアンに言いなさい。」 「ああ、ミンのトアンはお金をいっぱいくれたのよ。そのお金、全部使っちゃった。トア ンが立て替えてくれないなら、あたし、ニャイロスに言いつけるわよ。あんたのトアンと あたしができちゃったってね。そしたらトアンはチャベラウィッのご馳走をもらうことに なる。後悔するわよ。」 「あんたがそんなことをするのなら、わたしもあんたのトアンに言いつけるぞ。」 「ええ、どうぞ。あたしは怖くないわ。女は男よりも有利なのよ。トアンが無理やりそう したんだって申し開きすれば、あたしのトアンはきっとあたしを信じるはず。」 ロスミナのトアンはなるほどと思った。女というものはそうなんだ。男は簡単に女の口に 騙され、その口車に乗せられる。トアンは財布から3ルピア取り出してミンに与えた。 「ミン、わたしの質問に答えてくれ。自分がトアンのニャイになっているというのに、ど うしてひとりでホテルへ行こうとするんだ?」 「あたしがホテルへ行くことの何が悪いのかしら。あたしのトアンだって、町へ出ればホ テルへ行くでしょう。あなたがここへ来てあたしに会ったみたいに。」 「わたしのニャイはどう?どこかのホテルで見かけた?」 ミンは優しい笑顔を見せて黙っている。 「なあ、言ってくれ。わたしは知りたいんだ。」 「あたしにわかるわけがありません。だってあたしはあのひとと一緒に行動したことなん かないんだから。あのひとのトアンであるあなたがそれを知らなきゃいけないの。好きな 男が他にいるかどうかってことを。」 [ 続く ]