「デリのニャイ(37)」(2025年07月27日) ミンから情報が得られないことを悟ったトアンは話の方向を変えた。 「今日のミンはとてもきれいだな。」 「あれっ?あんなにきれいなニャイを持ちながら、こんな醜いあたしを欲しがるの?」 「もっと早くミンに出会いたかったよ。そしたらわたしがあんたを自分のニャイにしたの に。顔がきれいというだけじゃなくて、あんたの話も気が利いているし、振舞いもとても かわいい。あんたは頭がいいんだよ。あんたと一緒に暮らせば、楽しいだろうな。」 「あら、トアンは口がお上手ね。好きな女ができるとその女を褒め倒し。嫌いになると大 勢の前でけなし殺す。」 「ミン、今夜ここで一緒に泊まろう。賛成だろうね。」 「お金をくれるなら、嫌とは言わないわ。」 「いくら欲しいの?」 「20フローリン」 「ははは、あんたは何をしてそんな大金をもらうのかね。わたしなんぞは毎日、暑い日射 の下で汗まみれに働いて一日やっと10フローリンが手に入る。なのにあんたはわたしに 一晩付き合うだけで20フローリンだって?わたしは1ゴバンあげるから、それで明朝ナ シプチュルを買って食べなさい。部屋代だってわたしが払うんだから。」 「へへへ、じゃあトアンは猫を連れてきて一晩付き合わせればいいわ。1ゴバンを払う必 要もないでしょう。」 「いやあ、猫はいやだな。話ができないじゃないか。わたしはミンと話をしたいんだよ。 じゃあもう1ゴバン足して5セントにしてあげよう。そうすりゃ十分だろう?」 日が落ちて6時半になったというのにトアンがまだ戻ってこないので、食堂でひとりにさ れたクーリーがトアンの借りた部屋の外から声をかけた。 「トアン、今日あの人の家に行くのはやめますか?」 「ああ、今から行くから、外で待っていてくれ。」 そしてミンに向かって、 「ミン、今夜は客を取らないでくれ。わたしはしばらくしたら戻って来るから。」 と言った。ミンもその機会を逃さずに言う。 「はい、いいわよ。トアンが出かける前にわたしにお金をくれて、この部屋代も払ってく れるなら。」 「あんたに5ルピアを渡しておこう。それから部屋代の2ルピアも。いいか、忘れるなよ。 わたしが戻って来たときにあんたが別の男と一緒にいたら、どこの部屋にいようともこれ でズドンだからな。」 そう言ってトアンはポケットのピストルを取り出して見せた。ミンはトアンの前で胸をそ らし、言い放った。 「ええ、どうぞ。あたしを撃ちたいなら撃てばいい。だれがそんなものを怖がるもんです か。」 トアンは表で待っているクーリーのところへ行って、クーリーの後ろに付いて歩きだした。 ふたりはあまり遠くない一軒の家の表で立ちどまった。クーリーが家の外から声をかけた。 「タベ、パッ ドゥクン!」 家の脇の中庭のほうから中年の男の返事が聞こえたので、ふたりはそちらに向かった。 「パッ ドゥクン、今日はわしのトアンをお連れした。このトアンに魔が取り付いたかどう か、見てくれませんか。憂鬱な気分が続いているとおっしゃる。」 「よろしい、見て進ぜよう。」 [ 続く ]