「デリのニャイ(40)」(2025年07月30日) 「ははは、そりゃきちがい沙汰だ。しかしひょっとしたら、もうそんなことをされている かもしれない。全然故国に帰りたいと思わないんだから。」 「みんながやってるのって、もっとすごいのよ。身体をこすって垢を取ったり、爪の下を こすって汚れを取ったり、そうやって汚いものを集めて料理の中に混ぜる。自分のトアン の心が自分にだけ向けられて自分の言いなりになるように。でもあたしはそんな迷信を信 じないわ。男が望んでいるのは女の誠実さ。そんなまじない事をしても自分の女が自分に 不誠実だと男に思われたら、何の効き目もないでしょう。どう?トアンにこんなに誠実に なっているあたしに、トアンはよろめかないの?」 「ミンは話し上手だなあ。ミンと話していると実に楽しい。」 サテが焼けたので、またホテルのボーイにジャッファン屋を呼んでこさせた。買った料理 を食堂のテーブルに並べて三人で食事をはじめようとしたとき、トアンはブランディのボ トルを持って来るようにボーイに言った。 「まず食前酒だ。飲むと食事が美味しくなる。」 「あたしは飲めないわ。飲むとすぐに酔っぱらっちゃう。酔っぱらうと何をうわ言に言う かわからないから、はしたない女になるのはいや。」 「いや、大丈夫だよ。酔っぱらったら部屋で寝ればいいんだ。はしたない女になんかなら ないよ。」 トアンが無理に勧めたから、ミンは食べながら少しずつグラスを開けた。するとトアンが またそこにブランディを注ぐ。そうやって三杯目の途中になったころ、ミンが言った。 「あたし、頭が痛いから、もう飲めない。」 「いや、今飲むのをやめるともっと体に悪いから、もう一杯だけ飲んでぐっすり眠るほう がいい。」 トアンの言う通りに従ったミンは本当に酔っぱらってしまい、身体が支えられなくなって テーブルに突っ伏した。ぶつぶつと独り言を言っている。 「トアンは悪いひとよ。あたしが酔っぱらったところを見たいのよ。あたしにはこんなひ どいことをするくせに、自分のニャイだけは猫っ可愛がり。他に男がいるってことも知っ ているくせして。」 ミンのうわ言がおかしな内容であるため、ここではまずいとトアンは思ってミンを部屋に 移るように誘った。しかしミンはいやだと言う。 「どうぞご自分のニャイを部屋に連れて行ったら?他に男を作らないニャイをね。なんで あたしにこんなひどいことをするの。」 「ミン、ここでおかしなことをぶつぶつ言わないでくれ。部屋に入って眠るのが一番いい。 さあ、行こう。」 「トアンは意地悪。トアンはお馬鹿さん。自分のニャイが男をニ三人持っているのを知ら ないんだから。なのに他人のニャイにはひどいことをする。」 トアンはジャワ人クーリーに手伝ってもらってミンを部屋に連れて行った。ミンとふたり きりになってからトアンが尋ねた。 「ミン、さっきロスミナに男がいるって言ったね。それはだれ?」 「ははは、お馬鹿さん。トアンはめくらでつんぼだわ。あのカスミンを本当の伯父だと思 っているの?ははは、面白い。」 [ 続く ]