「デリのニャイ(43)」(2025年08月02日) チューケンの叫び声と銃声に目覚めた下男が駆けつけてきた。 「泥棒はどこです?」 「そこで死んでるやつだ。」 「こりゃ、家によくやって来るあのムラユ人だ。」 「死体を部屋から外に出そう。そして警察を呼べ。」 一晩のうちに拳銃で撃たれた死体が三つできた。ロスミナへの疑惑を警察が抱かないよう にチューケンが努め、ロスミナは事件に関わり合いがないという印象を警察に持たせるの に成功したので、警察は管理人助手と監督人頭の撃ち合いが仕事上での怨恨によるものと 推定した。そしてカスミンの方は単なる泥棒事件として処理された。 チューケンは一晩のうちに父親の巨額の財産を手に入れ、おまけに恋い慕うロスミナの身 柄まで手に入れたのだ。チューケンがロスミナを自分のニャイにするために自宅に連れ帰 ったとき、クウィホアの怒りはすさまじいものになった。ペナンへ行って夫婦になるどこ ろか、自分を無視してプリブミ女をニャイにしたのだから。 クウィホアは管理人助手と監督人頭の撃ち合い事件について、だれに頼まれもしないのに 聞き込み捜査を始めた。女の恨みほど恐ろしいものはないのである。色の道でつながった 男と女が怨恨関係に落ちれば、あとはどちらかが破滅することしか残された道はない。 クウィホアは自分ひとりで集めた情報がある形を取り始めたのを見て、警察に自分の結論 を垂れ込んだ。証人の名前も何人か提示された。警察は捜査を再開せざるを得ない。管理 人助手の下男だったカスミンが泥棒として射殺された事件も撃ち合い事件の全貌の一部分 ではないかと警察は推測した。カスミンを射殺したチューケンは泥棒の被害を防ぐための 正当防衛者でなく、殺人犯として取り調べをやり直さねばならない。 裁判所でその問題が検討されているさなかに、その話がチューケンの耳に入った。と言う よりも、裁判所の誰かが情報を売りに来たのだろう。チューケンは慌てた。チューケンは 自分のニャイのロスミナに言った。 「俺たちは逃げなきゃならない。ぐずぐずしていたら、俺もお前も捕まって監獄入りだ。」 のんびりと暮らしている現状を捨てるなんてとんでもないと思っているロスミナはチュー ケンの提案に不愉快そうに応じた。 「逃げるって、どこへ?」 「中国へ。」 「どうもありがとう、ババ。あたしはここで捕まることにするわ。ババだけひとりで中国 へ逃げて。」 「なんて愚かなことを。監獄の中がどんな場所か知っているのか?中国の暮らしが不潔で 汚くて腐っているとしても、ここの監獄の中よりはマシだ。しかし俺たちゃそんな暮らし をする必要がない。香港で暮らすんだよ。きれいな町と家に住んで、ヨーロッパみたいな 暮らしをするんだ。さあ早く、持って行く物を荷造りしなさい。」 チューケンはロスミナにそう言ってからタンジュンバライへ行くためにタクシー会社に電 話をかけた。そしてかれもすぐに金庫を開いて現金や宝飾品あるいは証券類などの財産を できるだけたくさんバッグに詰め込んだ。[ 続く ]