「デリのニャイ(47)」(2025年08月06日) そのうちに睡魔に襲われて眠る者、ぼんやりと夜明けを待つ者など、夜話も下火になって 場が静かになった。鶏の鳴き声が喧しくなり、夜空が白んで地面が見え始めたから、みん なは出かける用意を始めた。ヒンがタクシー会社に走って車を1台チャーターし、その車 で家に戻って来た。 タクシーの運転手が高速で突っ走らせたから、午前7時半ごろにはプルバウガンに到着。 みんなタクシーから下りてパサルへ行き、飲食物をたくさん買って車に積み込んだ。さあ、 いよいよチュルミン海岸も間近。ところがビーチへの道路は道幅が狭くて穴だらけのため、 タクシーは徐行を強いられた。海岸の方から魚を積んだサドがやってくるたびに徐行して すれ違わなければならない。それらのサドは町へ魚を売りに行くのだ。 ついにビーチに到着し、浜に打ち寄せる波を眺めて女の子たちは狂喜する。そして自分か ら上着とカインを脱ぎ、下着姿になって海に入って行った。男三人は大喜び。実に素晴ら しい眺めじゃないか。めったに見られるものじゃない。 そうやって海に入ったり、浜に上がったり、飲み食いしたりしてゆっくり自然を楽しみ、 夕方3時近くになったのでメダンに帰ることにした。 タクシーがメダンへの道を突っ走っていると、非常線が張られて警官が見張っている場所 にやってきた。警官が停止を命じた。 どこから来てどこへ行くのかと運転手に尋ねたので、運転手はチュルミン海岸からメダン へ帰る途中だと答えた。警官は車内を見て 「これは違う」 と言った。テッが警官に尋ねた。 「どうしたんですか?」 「トゥビンから来たタクシーを探している。中に男と女がひとりずつ乗っている車だ。男 は殺人犯で、女を連れてタクシーで逃げたから逮捕するように命じられている。この車は 通ってよい。」 タクシーはまたメダンに向けて街道を突っ走る。ルブッパカムに近付いたとき、前方をタ クシーが1台走っているのが見えた。そのタクシーも高速で突っ走っている。 「おい、あれが殺人犯じゃないか?運転手さん、あいつを追いかけろ。」 そう言いながらテッは腕まくりする。シナムが尋ねた。 「ババはピストルを持ってるの?」 「ピストルはないが、クンフーの心得がある。」 前を走っているタクシーのタイヤが破裂した。そのタクシーは確かにチューケンとロスミ ナが乗ったタクシーだったのだ。チューケンは予期しない不運に見舞われたことになる。 追いかけてきたタクシーが停止しているタクシーの近くまで来て止まり、テッが車から飛 び降りて前方のタクシーに近付く。中に男と女がひとりずつ乗っている。そして男の手に は拳銃が握られていた。テッにはまだ好運がついていた。チューケンの拳銃にはもう弾丸 が残っていなかったのだ。 追いかけてきたタクシーに乗っていた男が近寄って来たので、ロスミナが叫び出した。 「助けて、助けて!あたしの命を救って!」 テッが反応する。 「どうした、どうした?」 すると拳銃を手に持っている男が言う。 「俺の問題に干渉しないでくれ。これは俺のニャイで、俺たちはメダンに行く途中だ。」 「違う、あたしはこの人のニャイじゃない。この人は殺人犯よ。この人を捕まえて警察に 引き渡してちょうだい、ババ。」 テッは女を車から引き出そうとした。拳銃の男がそれを止めた。ふたりの間で格闘がはじ まった。テッの仲間ふたりも車から出てきて加勢する。チューケンはさんざんに殴られて 結局捕まってしまった。[ 続く ]