「デリのニャイ(50)」(2025年08月09日)

ということで食事しながらロスミナは事件の話をチェティにした。
「ある夜中に農園管理人助手のあたしのトアンの家に監督人頭がやってきて玄関のドアを
叩いたの。するとトアンがそれを泥棒だと思ってピストルで撃ったのよ。監督人頭も拳銃
を撃ち返し、ふたりとも死んだわ。
監督人頭の息子があたしをかどわかして逃げようとし、捕まるのを恐れてあたしの伯父を
拳銃で殺した。すると逃亡中にあたしのババがあたしを助け出し、監督人頭の息子を捕ま
えて警察に引き渡したの。」
「ああ、これは重大な話だ。弁護士に知らせなきゃ。」

チェティは食事を終えるとまた弁護士のところへ行った。それ以来、ロスミナとチェティ
は仲良しになった。そして夜になるとまたロスミナの家にやってきて、まるで自分の家の
ようにふるまい、ロスミナの家で寝た。

毎日夜になるとロスミナの家で泊まるようになり、そのうちに男と女の関係になってしま
ったが、ロスミナを自分のニャイにして養ってやるという素振りも言葉も皆無。

男と寝たら「金をくれ」というロスミナの習慣もまるでどこかに置き去りにされてしまっ
たようで、このチェティにそんなことを一度も言ったことがない。チューケンの金を手に
入れて、金銭への渇望を忘れてしまったのかもしれない。それはともかくとして、ロスミ
ナはチェティの図太さと口のうまさに翻弄されたのではあるまいか。人生経験と人あしら
いの技能に関して、とてもロスミナに太刀打ちできる相手でなかったということにちがい
あるまい。

少なくともチェティは常にロスミナに優しい態度と甘い言葉で接し、ロスミナに不愉快な
気持ちを抱かせたことがなく、安心感と安全感を与え続けた。ロスミナは頼りになる人間
としてチェティに接していたから、ふたりの人間関係は多分、親友と呼べるものに近かっ
たのだろう。


ある日、ロスミナの家に来たチェティがたいへん残念そうな様子を見せたから、ロスミナ
がそのわけを尋ねた。
「一軒の家が3万フローリンで買えるのだが、自分には今そんな金がないので、みすみす
大儲けできるチャンスを逃さなければならない。その家は店舗に改装したら10万フロー
リンですぐに売れるんだ。」
「そんな大儲けができるの?」
「そうなんだ。だからわしゃ残念で仕方がない。」
「あたしにはそんな大金がないけど、少しくらいなら貸してあげてもいいわよ。」
「ニャイはどのくらい貯金を持ってる?」
「2万5千フローリン。あと宝飾品がいくつか。」
「そんなにありゃ十分だよ。」
とチェティはうれしそうな顔をロスミナに向ける。

自分を助けてくれる人間に多少の恩返しができたと思って、ロスミナはあまり深く考えず
にそれらをチェティの手に委ねた。チェティは借用証を書いてロスミナに渡した。[ 続く ]