「デリのニャイ(51)」(2025年08月10日) トゥビンティンギの裁判所へ行く日が近付いてきた。ロスミナは入獄の判決が下されるこ とをとても恐れた。一日、一日、と憂鬱が深まる。ロスミナは憂さ晴らしをしようと考え た。ガンブントゥにあるオランダ人の家でそこのニョニャが婦人を集めて賭場を開いてい ることを聞いていたので、そこへ行ってみることにした。プリブミの上流階層婦人たちも もちろん歓迎される。そこにやってくるオランダ人ニョニャたちも、元をただせばオラン ダとプリブミのプラナカンなのだ。 若い金持ちのプリブミ女性がやってきたから、最初は歓迎された。最初の日、ロスミナは 5フローリン勝ってそこを引き上げた。ところが、ロスミナが何者かを知っている者がい たのだ。そこに集まっている婦人たちは衆議一決した。娼婦上がりで殺人事件の元凶にな った女がのぼせ上ってわれわれの娯楽施設に乗り込んできた。持ち金をむしり取って、思 い知らせてやろうじゃないの。 翌日またやってきたロスミナに、婦人たちは愛想の仮面を上塗りする。あたしはこんなに 歓迎されているんだと思ってロスミナは喜んだ。ところが賭け始めると昨日とはうってか わって大負けに負けた。勝つはずがない。イカサマが行われたのだから。 手持ちの金を使い果たしたから、チェティに金を送ってくれと手紙を書いてその家の下男 を遣いに走らせた。戻って来た下男は5百ルピアと借用証をロスミナに渡した。その借用 証にロスミナのサインをもらってからまた持ってきてくれとチェティに頼まれたと下男が 言うので、ロスミナは数字だけ確かめてサインした。下男はそれを持ってまた出かけて行 った。その日のロスミナが婦人賭場で惨憺たる結果になったことは言うまでもあるまい。 ついに、チューケンとロスミナの裁判の日がやってきた。ロスミナは弁護士に付き添われ てトゥビンティンギの裁判所へ行った。チューケンも弁護士を雇っていた。チューケンは 既に事件を正直に供述していた。父親がロスミナの間男になり、管理人助手に見つかって 撃ち合いになったこと、カスミンが自分の家に泥棒に入って来たので自分が射殺したこと。 それが事件の骨子だった。 法廷で判事は供述書の要所要所を被告のチューケンに質問し、チューケンは間違いがない ことを証言した。さらに逃亡中に自分の全財産をロスミナが持ち逃げしたことを訴え、そ の金を自分に返させるよう命じてほしい、とチューケンは法廷に要請した。 そのチューケンの要請に関連して、互いの弁護士が法廷で論戦を展開し、自己の存在意義 を雇い主に示した。判決は十日後に下されることになった。 十日後、全員がまたトゥビンティンギの裁判所で再会した。判事が判決文を読み上げた。 被告人チューケンがカスミンを射殺したのは、家に押し入った泥棒に対するものであるこ とが状況から明白であるため、チューケンの殺人行為は成立しない。 ロスミナと監督人頭の不倫行為も証拠不十分であるためロスミナは無罪。またチューケン の金をロスミナが横領した件も十分な証拠がないため、ロスミナはすべての告訴から放免 される。ということで一件落着した。 チューケンは農園に戻って、自分を警察に訴えたクウィホアを家から追い出した。農園管 理人はチューケンの父親がロスミナに狂うまでの優れた仕事ぶりをよく知っていたから、 息子を父親の後継ぎにさせることにし、農園幹部職員としての仕事を与えた。チューケン はその期待に応えて管理人が満足する仕事ぶりを示したので、かれの人生は安定した。そ して良い華人家庭の娘を妻にしてひとかどの人物になった。[ 続く ]