「印尼華人差別(17)」(2025年08月28日) 約束を果たさなくなったアチュンを締め上げるために軍人からの脅しが始まり、4月には 拉致されて軍営の監獄に監禁された。しかし監禁は一週間で終わり、軍隊はアチュンの身 柄を警察に引き渡した。するとガルッ県警はアチュンを釈放したのである。42億ルピア の借金は必ず返済するとアチュンが約束したのがその理由だった。 預金者たちはアチュンに具体的な返済計画を要求した。アチュンは6月30日にすべて返 済すると約束した。しかしその日、アチュンの持っている資金は3.7億ルピアしかない ことが明らかになった。 6月30日の夜、県下は不穏な雰囲気に包まれた。「チナを懲らしめろ」といった類の言 葉が緊張した面持ちの男たちの口から洩れた。1998年にいくつかの都市で起こった暴 動の記憶はまだ生々しい。ガルッ県下のトコチナをひとつ残らず破壊し焼いてしまえと言 っている男たちがかなりいるという風聞が流れた。 そんな情勢に対応するために県警が総力をあげて要所の配備についた。問題の焦点である アチュンの薬局は厳重な警戒態勢下に置かれた。県警本部長は地域軍管区司令部に出向い て、部下の中で過激な行動に走る者が出ないように監視と監督を強めるよう司令官に求め た。結局何事も起こらず、県下の夜は平穏に明けた。 たとえ一個人が犯した違法行為であっても人種暴動につながりかねない危険な要素をはら んでいると考えた県庁側は急遽、この問題の善処方法を探るために地方行政と民間指導層 で行われる地域指導者協議会を開いて話し合いを持った。その一環として、県下在住華人 4百人の意見を聞くために7月3日の夜に召集をかけたものの、出席したのは110人だ けだった。 協議会側の関心はアチュンの借金返済を成し遂げる一点にかかっていた。アチュンがプリ ブミに対して作った借金が返済されなければ、人種暴動が起こるかもしれない。行政とし ては、それだけは絶対に防がなければならない。こうして協議会の話し合いはオリエンテ ーションがひとつの結論に絞られていった。 アチュンは手元に3.7億ルピアを持っている。そして自分の全資産を売却してもう1億 ルピア作る。アチュンの全資産は4億ルピア相当だが、銀行に3億ルピアの借金があるの で、闇金融の決着に回せるのは1億だけだ。不足分の37.3億を集めるのに、同じ華人 仲間である皆さんの協力をお願いしたい。この問題を解決しなければ人種暴動が起こりか ねない状況になっているのです。皆さんがガルッ県内で安全で平穏な生活を続けていくた めにも、これは重要な問題なのです。 協議会側はこの結論について、アチュンと同じ人種であるひとびとに罰を与えようという ようなものでなくて、ヒューマニズムと治安が主目的に置かれているのだと報道界に説明 した。華人社会は仲間同士の助け合い意識がたいへん強いので有名だ。アチュンの借金返 済に手を貸すことはアチュン本人を助けるということを目的にしているのでなく、現在県 下の華人コミュニティが置かれている危険な状況を軽減させることが最大の狙いなのだと いうのがその論旨だった。 しかし県下の華人コミュニティは協議会が抱いている深刻さにほとんど同調しなかった。 仲間同士の助け合い意識が強いと世間一般で言われているにも関わらず、出席した華人た ちの間には白けた空気が漂っていた。出席者のひとりは、コンパス紙記者にこう語った。 「アチュンの個人的な借金返済問題にどうしてわれわれが協力しなければならないのか理 解に苦しむ。人種暴動を起こさせないようにするのが行政の責任であり、もしも起こった なら国民を保護するのが国家治安機構の任務であるにもかかわらず、お前たちが被害者に なるだろうから金を出せと脅されているように感じた。」 [ 続く ]