「印尼華人の受難(13)」(2025年09月13日) しかしマレーシア・フィリピン・ベトナム・ラオス・カンボジャはその説が分析している 内容と似たり寄ったりであるというのに、暴動発生件数はインドネシアよりはるかに少な い。軍事政権下にあるミャンマーでは、昔のインドネシアのように「ひとりひとりの県令 がそれぞれ自分の華人を持っている」と形容される状態にあるそうだ。将軍たちは自分が 持っている東洋のユダヤ人、つまり自分の子飼いの華人に自分の地位をバックアップさせ ている。 ラテンアメリカやアフリカでも状況は大差ない。ほんの少数の白人系が広大な土地を所有 したり、国内経済の大部分を握っている。アフリカの東岸部諸国では白人系とインド人、 西岸部諸国は白人とレバノン人といった人種が経済上流層を形成してマジョリティ黒人層 の嫉妬と怒りを浴びている。 デモクラシー原理で営まれる社会秩序とフリーマーケット原理で運営される経済秩序の間 には必ずしも整合性が成り立たないと米国の社会学者は言う。西ヨーロッパ諸国は長い歳 月をかけて試行錯誤の中からそれらの原理を選び出し、実社会での調整を行いながら国家 を築き上げた。そういう経験も歳月も持たない非西ヨーロッパ世界に原理の実践を強いて も、かれらが経験を積んで矛盾の軽減された社会を営むようになるまでにはまだ何百年も の時間が必要かもしれない。その長い期間に非デモクラティックな経済状況に関連して人 種暴動の起きる可能性は十分に考えられる。 この見解は世界の覇者となった西ヨーロッパ文明の地球支配のあり方が不合理を抱えてい るという指摘のようにも思えるのである。人類は果たして、どこへ向かって進んでいるの だろうか? 自分たちの階層に突然向けられた暴力に直面したインドネシアの華人プラナカン国民は、 語られ尽くされている定理を実践した。経済学者アルバート・ハーシュマンによれば、タ ーゲットにされた者が示す反応はexit, voice, loyaltyの三種類に分かれるそうだ。脱出 派はシンガポール・香港・タイなどに空路出国した。スカルノハッタ空港は華人系国民と 外国人で超満員になり、大勢が空港ビルで夜を明かした。 白人の小グループが自分で運転する車で空港ターミナルビルまでやって来て、その辺りに いるプリブミに車を売ったり、あるいは乗り捨てて去って行った話を本論筆者のわたしは 耳にしている。というのも、乗り捨てられた車を手に入れたプリブミがそんな話をしてく れたのだ。かれには中古車を買う程度の金の余裕すらなかったというのに、そのとき自分 の車を持っていたのだから。 ボイス派は抗議を新聞やインターネットに書き、あるいはテレビやラジオで発言した。被 害者の団体を編成して政府に対する賠償請求を法的ルートで迫る者たちもいた。レフォル マシ中華党と名乗る政党が誕生し、政治運動に乗り出す者もいた。 サイレントマジョリティのロイヤルティ派はウエイト&シーの態勢に入る。何がやって来 るのか、どのような変化が起こるのか?もしも事態が悪化して行けば、脱出するだろう。 どのような決断を下すかを決めるまで、かれらは動かない。事業家・商人・一般市民など がこの階層を形成している。ほぼ3百万人いる印尼華人の中で、5月暴動に際して脱出し たのは1万人、ボイス派はおよそ1百万人、残りはロイヤルティ派だったと言われている。 事件後に脚光を浴びたのはたいていがボイス派のひとびとだった。[ 続く ]